泣かないはずの彼が…

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元になったエピソード

冷徹人間、私は彼のことをそう呼んでいた。彼と私は映画を見るのが趣味である。洋画、邦画、アニメ、大抵のジャンルは見てしまう。月に1,2回映画デートをする。そんな彼と付き合って半年を越えるが、私は彼が泣いているところを見たことがない。社会現象になるほどの大作で周りが泣いている作品でさえ、彼は泣かない。その作品の人物に感情移入はされないのだと言っている。そして彼は現代文の授業が苦手だ。根本的に人の気持ちを読み取ることが得意では無いらしいのだ。だから彼は泣かない。幼い頃に怪我をして泣いたのが最後だと言う。彼には人間的な感情が欠如しているのだと思っていた。

数日後、彼は誕生日を迎えた。私は手紙に感謝と思い出を綴り、普段言えないことを書いた。その夜彼から珍しく急に電話がかかってきた。電話に出ると、ズビズビと何やら鼻水をすする音が聞こえた。彼は泣いていたのだ。驚いた。彼は私の手紙で涙を流した。冷徹人間と呼んでいた彼にも人間的な感情があったのだ。もしかしたら、その時彼の人間的な感情を生み出したのかもしれない。どっちにしろ彼の涙を見れるのは私だけで、周りには見せない弱い部分も愛おしいと思ってしまう。もっと彼のことを知りたいと感じた夜だった。

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written by らん