「先生のことが、ずっと、……っ、好きでした…っ…‼」
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もうすぐ太陽が沈む午後六時。
私は今まで定期考査で驚きの三連続赤点を
叩き出した、数学の補習を受けていた。
数学の問題なんてちんぷんかんぷんで、
問題の意味すらわからない。
というか、まず授業を真面目に聞こうとする
ことさえしなかった。
だって、授業中いつもあなたに
気を取られてしまうから。
──佐々木先生。
授業を聞く耳よりも先生を見るための
目のほうが活発に働いて、
先生の仕草全部を拾い上げる。
黒板に文字を連ねるために、私に向ける背中。
時々下がってくる眼鏡をクイッと
持ち上げるところ。
ずっと先生のことを見つめているからか、
時々目が合う瞬間。
“教師と生徒の間に好意が芽生えてはいけない”
そんなの、言われなくたって
とっくにわかってた。暗黙の了解だ。
でも、私は生徒でもあり一人の女の子。
先生だって教師でもあり一人の男の人。
恋をする条件なんてとっくに揃っている。
だから、今、抑えきれなくなった
感情をあなたにぶつけた。
──「好きです」と。
そして今現在先生からの返事待ち。
胸がドキドキと口から出てきそうなくらい
暴れ狂って、心拍数はみるみる上昇。
今にも倒れて泡でも吹いてしまいそうな私に、
ようやく先生が言ったのは、
「ごめんね」だった。
「えっ……」
わかりきっていた結果だけれど、
何故だろう。
驚きが隠せない。ショックで動けない。
先生は続ける。
「君と僕とは、ただの生徒と教師。
僕はただ単に君に数学を教えるだけで、
だからそれ以上でもないし、それ以下でもない」
……そう、だよね。うん、しってた。
先生と私ははあくまで教師と生徒の関係であり、
どうあがいたってそれ以上の関係にはなれない。
わかってたよ。しってたよ。
でも、この返事に納得がいかない……っ…
自分勝手だよね。
先生に恋してるって心の中で言い訳だけして、
結局先生困らせてたの私だもん。
気づいたら、目から大粒の涙が溢れていた。
「ごめん…なさい……っ…」
たくさん迷惑かけてごめんなさい。
「好きです」なんて言って、
困らせてごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさ──……
その時、涙で湿ってしまった
私の腕を掴んで先生は引き寄せる。
瞬間、私は先生の胸の中にいた。
「迎えに行くから」
「……え?」
「卒業したら、必ず迎えに行くので、
……それまで待っていてください」
私の背中に回された腕からは、
何かを一途に守り抜く、そんなようなものが
感じ取れた。
──恋が叶うのは、今すぐじゃなくたっていい。
終わったはずの私の初恋。
本当はここからがハジマリでした。
written by 仁 華 .
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