忘れた記憶に誘われて…真実は秋の奥深く

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元になったエピソード

僕のそばで誰かを思って泣いている姿が美しくて、恋をしてしまった。
だけどその思いはずっと秘めておくことにしている。彼女には幸せになってほしいから。

人里離れた山奥に「金木犀の神社」がある。
境内には普段それほど匂いは漂っていないけど、
拝礼をすると金木犀の香りが参拝者の身の回りに濃く漂い、辛い記憶を忘れさせてくれる。
なので、この神社は「忘却の神様」として信仰されている。

境内に立つ1本の金木犀、それが僕。
参拝者に匂いを届けるのが役目だ。
そんな僕が、人間に恋をしてしまったのだ。
相手は毎年この季節になると拝礼しに来る女性だった。

その女性はいつも涙を流していた。
ずっと忘れられない人がいるようだ。

初めて彼女が神社を訪れたのは6年前。
彼女は僕にもたれかけ泣き続けた。
僕は葉先でそっと涙をすくったり、やさしく抱きながら頭を撫でたりした。

次の年も、その次の年も彼女はお参りに来た。
神社に来る度僕にもたれかかって、何かを思い出しながら
幸せそうに微笑んだり涙ぐんだりしていた。

そして、通い続けて5年となったある日…

どうしても彼女に存在を示したくなった僕は、彼女の前に現れることにした。
(本当は怒られるけど、丁度神社の上の人が西の方へ行く時期だし)

僕と彼女はしばらく見つめ合い、挨拶を交わした。(神社の人と思われているようだ)
僕「こんな変な場所にある神社にいらして下さりありがとうございます」
女「この神社にはお世話になっているので…本当に不思議な神社ですよね」
僕「思い出と香りは直結しやすいんです。匂いは他の感覚よりも、記憶とか感情に影響を与えるんです。特に金木犀は、良い思い出しか残さないんですよ」
女「ここにお参りしたおかげで、良い思い出ばかりです。」
以前の辛い記憶だけ忘れられているようで安心した。
女「ただ…この季節になると思い出してしまう人がいるので、忘れる為に毎年来ています。」
僕(…やっぱり以前好きだった人のことが忘れられないのかな)

神渡しだろうか、突然風が吹いて、彼女の髪の毛に木の葉が舞い落ちた。
それを取ろうとした時、触りたくなって、思わず彼女の頭を撫でてしまった。
彼女は何か思い当たるような顔をした。
女「以前どこかでお会いしたような気がするんですが…」
僕「…どうしてです?」
女「なんだか以前もこんな風に触れられたりしたような気がして…」

いつものように彼女は金木犀(僕)に触れに行った。

僕「…わかってしまったんですね」
女「やっぱり…。この季節になると、思い出してしまうんです…金木犀の香りで。
私、この金木犀(あなた)に恋をしてしまったんです。
慰めてくれた5年前から、ずっと」

香りで辛い記憶を忘れさせるつもりが、僕の香りで僕自身を思い出させてしまってたんだ…

僕も大好きなんだよと、本当のことを告げようか迷った。
だけどまた彼女を悲しませてしまうかもしれないので言わなかった。
彼女もそれをわかっているようだった。人間と木は一緒になれない…。

女「何も言わなくていいんです。手を合わせる間いつものように…
抱きしめてもらっていいですか?」

僕は金木犀の香りで彼女をたくさん包んであげた。
僕自体を忘れてもらうように、香りを濃く出した。
やがて彼女は僕に向かって祈りを込め、何事もなかったかのように帰って行った。

そして今年。

彼女がまた神社にやってきた。

「忘れたい人がいるので…お参りに来ました」

この季節が来る度に、金木犀の香りで僕を思い出してしまうらしい。

彼女は毎年、僕に恋をしている。
この関係はあと何年続くのだろう。

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written by 希里谷えのと

マンガ作者

希里谷えのと

秘密 投稿マンガ数 4

令和から漫画描き始めてみました。 趣味で描いている漫画の更新はインスタに投稿中… 【制作実績】 ◇恋エピ様 掲載漫画 ・「疲れてヘトヘト…でもこれがあるから幸せです」作画 ・「完璧男子と2人きり…?」作画 ・「きみと、波にのれたら」レビュー漫画制作 ・「奥手な彼とまさかのファーストキス」作画 ・漫画家さん募集広告デザイン&イラスト ◇その他 花王様 サクセス PR漫画 入賞( Twitter広告漫画に採用)

エピソード投稿者

希里谷えのと

秘密 投稿エピ 1

令和から漫画描き始めてみました。 趣味で描いている漫画の更新はインスタに投稿中… 【制作実績】 ◇恋エピ様 掲載漫画 ・「疲れてヘトヘト…でもこれがあるから幸せです」作画 ・「完璧男子と2人きり…?」作画 ・「きみと、波にのれたら」レビュー漫画制作 ・「奥手な彼とまさかのファーストキス」作画 ・漫画家さん募集広告デザイン&イラスト ◇その他 花王様 サクセス PR漫画 入賞( Twitter広告漫画に採用)