私が惚れてしまった彼には、彼女がいる。
背が低くて淡い色が似合う、笑うと花がこぼれそうなくらいかわいらしい彼女がいる。
平々凡々で無愛想な私より、その子を選ぶのは当然かもしれなかった。
でもどうしても諦めきれなくて、なにかの気の迷いで、なにかの弾みで……と願ってしまう日々が続いた。
彼には笑っていてほしいのに、彼の幸せを心から願えない自分が嫌いだった。
紅葉が色づく頃、彼から連絡が来た。
「今から会える?」
夜更けだったけれど、断る理由なんてなかった。
家を飛び出して、2人の家の近所にある公園へ。
そこには少し暗い表情の彼がいた。
最近彼女と上手くいかなくて悩んでいる。
別れるべきなのかもしれない。
といった内容の相談だった。
ここで別れを勧めてしまえば、彼はフリーになる。
悲しいけれど、そんな悪い考えも浮かんだ。
でも実行する勇気なんてなくて、結局当たり障りのない言葉で心無い応援をしてしまった。
彼の「ありがとう」が胸に刺さる。
家で1人涙を流すのは、もう習慣になっていた。
それからも、彼の相談は何度か続いた。
その度に私は、励ましの言葉を並べた。
「私にしたらいいじゃないですか」なんて、口が裂けても言えなかった。
しばらく連絡が途絶えたので、仲直りしたのだろうと思っていた。
雪が溶ける頃、再び彼から連絡があった。
「会いたい」
いつもの公園で、いつものように話を聞こうとする。
「彼女と別れたんだ」
耳を疑った。しかももう数ヶ月前のことらしい。
「別れて1人になって、いろいろ考えたんだ。それで、わかったんだ。辛いときに支えてくれたのはいつも君だったって。変な気を使わずに、素の自分で楽しく過ごせるのは君といるときだって。」
「俺と付き合って…くれないかな」
泣かずにはいられなかった。
部屋の片隅で1人流す涙とは違う涙だった。
桜は、もうすぐ花を咲かせそうだ。
written by 恋エピ公式
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