ココロに距離ができたワケは【前編】

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元になったエピソード

高校生のころから付き合っている彼“国見松太(くにみしょうた)”と私〝志木(しき)まこと”は、別々の大学に進んだ後も交際を続けていました。

もともとバスケ部でスポーティだった私は、大学進学を機に、髪を伸ばし、メイクをして、ヒールも履くようになると、高校時代とは雰囲気が変わって、急に男の人からも声をかけられるようになりました。
世界が広がったようで嬉しく、もちろん彼のことを好きな気持ちは変わらないけれど、他に気持ちの向く時間が大きくなっていきました。

それぞれバイトも始め、もともと家も遠いので、会うのは月に1〜2回。たまに会う彼はいつも通り優しく、不満も何もありませんでしたが、彼も彼で、新しい生活や出会いを楽しんでいるようでした。
そして、高校では毎日のように会えた当たり前の楽しい日々が嘘のように、あっという間に距離ができていきました。

私は、そのとき、周りにチヤホヤされて、少し調子に乗っていたのかもしれません。
徐々に、彼の優しさや穏やかさが、物足りなく感じるようになっていきました。
「マキちゃんの彼氏はこんなサプライズしてくれたんだって!」「ユウちゃんの彼氏ってすごく男らしいと思わない?」なんて、彼の前で平気で発言して、彼を困らせていました。
困っている彼を見て〝なんて頼りないんだろう”とさえ思っていました。

それなのに、彼が私の知らない友人たちと楽しそうにしているのは気に入らないのです。
カフェでデート中、彼から、来週は友人たちと泊まりで遊ぶと言われ、ふいに、「私との時間を削ってまでその友達と会いたいの?」と言った時、これまで、全く怒ったことのない彼が急にテーブルをバン!と叩き、しばらく黙ったあとに「ごめん。俺これ以上、まことに優しくできない。」と言われてしまいました。
驚いて絶句する私を置いて、彼は「今日は帰る。送ってけなくてごめん。」と帰って行ってしまいました。

しばらくは、私も素直になれず、不貞腐れていましたが、それから彼は一切連絡をしてきませんでした。
あんなに優しい彼を、本気で怒らせてしまったんだと、深く深く反省しましたが、これまでの自分の言動を思うと、今更何をしても許されない気がしました。

彼に連絡する勇気がなかったことと、ちゃんと反省したかったこともあり、私はしばらく学校とバイト以外は一人で過ごしていました。

私の誕生日は3月でまだすごく寒かったのですが、前に彼と行きたいねと話していた、ドラマのロケ地になった、海の近くにある水族館に一人で出かけました。
彼からの連絡が誕生日にもないことが、私たちの関係の終わりを意味している気がしていました。
だから、心に区切りをつけたかったのかもしれません。

ゆっくり館内をまわり、ドラマに出てきたくらげのペアストラップを買いました。
水族館を出て、海辺に座って、ストラップを眺めていると、これまでの彼との思い出が頭の中をいっぱいにして、涙が止まりませんでした。

私が辛い時に気付いてくれた。
誰よりも心配してくれた。
こんな私を可愛いと言ってくれた。
すごく照れ屋だけどすごく愛情深かった。
いつも大切にしてくれた。

なのに、そんな優しい彼をあんなに怒らせて、本当に本当に私は最低だと思いました。
彼がもう、私に気持ちがなくなっていても、ちゃんと最後に謝って、私の気持ちを伝えようと思いました。


日が暮れてきて、そろそろ帰ろうと思った時、うしろから「まこと!!」と呼ばれました。
声ですぐに彼だと分かりましたが、まさかと思い、こわくて、振り返れませんでした。
足音が近づいてきて「まこと?」と、いつもの彼の優しい呼び声がすぐ後ろで聞こえました。

子どものように泣きじゃくる私の横に座って、頭を撫でて、優しく抱きしてめて、背中をさすりながら、「まこと、ごめん。あんな大きな声出して、驚かせてごめん。」と言って、私が話せるようになるまで、ずっとそのまま待っていてくれました。私は彼の変わらない優しさに胸が詰まる思いでした。

涙が止まって、私もちゃんと思いを伝えようとしましたが、感情が溢れすぎて、しゃくりあげてしまい、上手く話すことができませんでした。
彼は大丈夫だからと言うように、私の頬を両手で包み込んで互いの額を当てるように顔を近づけ、「ちゃんと好きだよ。確かに前とは違う気持ちかもしれないけど、今のまことが好きだ。」と言ってくれました。

ふと、彼が私の手元にあるペアストラップに視線を落とし、あ!!と大きな声を出しました。
驚く私に、彼が自分のカバンから出して見せてくれたのは、同じペアストラップでした。
私が、サプライズをされた友人を羨ましがっていたため、そういったことが苦手な彼が、一生懸命考えてくれたサプライズだったようです。
「かっこわる…」と言って照れる彼の頬を、今度は私が両手で包んで、ごめんねのキスをしました。

それから、ちゃんと彼に謝って、私も変わらず大好きだと伝えました。

海に日が落ちていくのを見ながら、二人で初めてキスしたときをのことを思い出しました。

「まこと、誕生日おめでとう。これからもずっとよろしく。でも、あんまりキレイにならないでいいからね。」

彼の底知れぬ愛と優しさに包まれて、私はとても幸せでした。
これからは、独りよがりじゃなく、ちゃんと私も、彼を幸せにしたいと思いました。

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written by non37