枯れない花

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元になったエピソード

私の名前は白川雪子。
今年で70歳になります。

今日は、私が出会ったある青年の話をしたいと思います。

あれは主人が亡くなって、ちょうど10年経った頃の話ーー



私は、仏壇に飾る花を買いに、いつも行く花屋に向かった。
花屋に入ると、20代くらいの若い男性がカウンターの奥で花の手入れをしている。

(あら、いつもの店員さんじゃないわ。新しく入った子かしら?)

その店員を見て、心臓が止まりそうになった。

店員は、亡くなった主人の若い頃にそっくりだったのだ。

透明感のある茶色い瞳。
柔らかな髪。
仕草まで主人にそっくりだ。

(ドッペルゲンガーってやつかしら…本当にそっくりだわ)

じっと見ていると、目があってしまう。

店員「……?」

私はパッと目を逸らして、花を探し始めた。


店員「なにかお探しですか?」

私がヘルプを出していたと思ったのか、彼は私のところまで来て声をかけてくれた。

声までそっくりで、私はいつまでもその声を聴いていたいと思った。


。。。



結局、何も買えなかった。

雪子「ごめんなさい。親切にしていただいたのに何も買えず…」
店員「いえ、とんでもないです。また、お待ちしております」
雪子「……」

(この花屋は、もう来れないわね…)

(彼を見ていると、主人のことを思い出してしまう)

幸せな気持ちと、切ない気持ちが同時に込み上げてきて、涙が出そうになる。

店員「お客様…?」

彼が、心配そうに顔を覗き込む。

雪子「…ごめんなさい、大丈夫よ」
雪子「あなたと出会えてよかったわ」
雪子「さようなら」

店員「……」

店を出ると、粉雪が降っていた。


「あの…!!」

大きな声が街に響く。
振り返ると、花屋の店員が私の元へ走ってきた。


店員「これ、よかったら貰ってください」

目の前に差し出されたのは、白く輝くユリの花だった。

雪子「これ……」
店員「このユリ、白くて綺麗で、お客様にぴったりだと思います」
雪子「……」
店員「受け取ってください」

そう言って店員は優しくニコッと笑った。

私は彼からユリの花を受け取った。
空から降ってきた雪が、白いユリの上でキラキラ輝いている。

ユリを見ていると、主人が生きていたあの日の思い出が鮮明と蘇ってきた。


…………

あの日も、雪が降っていた。

待ち合わせ場所にやってきた主人は、私に花束を差し出した。


彼「雪子さんに、プレゼント」
雪子「まぁ、素敵なユリの花!」
彼「花屋で見かけたんだ」
彼「肌が白くて綺麗な君にぴったりだと思って」
雪子「ふふ、ありがとう。大切にするわ」

…………

ひとすじの涙がこぼれた。
そして、私は花屋の青年に笑顔で答えた。

雪子「ありがとう。一生大切にするわ」


。。。


家に帰り、ユリの花を飾る。
私は、仏壇の前に座って主人に話しかけた。

雪子「雄一さん」
雪子「素敵なユリの花をありがとう」


いつかこの花が枯れたとしても、
あなたへの愛は永遠に枯れないでしょう。

私が微笑むと、彼も一瞬微笑んだ気がした。

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written by 雨くらげ