俺が野球選手でお前はアナウンサー26

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修学旅行の夜

夕食の時間が終わり、それぞれ自由時間を楽しんでいる中、私とハナとうたはお土産を探しに旅館の売店へ向かっていた。

ハナ「今日2人に全然会わなくて寂しかった〜」

うた「ね〜!ハナの班だけ来てないのかと思った」

ハナ「ここにいるよ〜」

私「あははは」


言わなきゃ

あんまり先延ばしにすると、また前みたいに雰囲気が悪くなる

今日中に言おう

でも何て言えばいいんだろう


喧嘩になったり怒られたりするのが怖くて、なかなか切り出せずにいると、あっという間に売店に着いた。

大仏キューピーを指差して「ハチ、キューピーあるよ」と教えてくれるうた。

私「これは、買います」

ハナ「可愛い〜!でも何体目?まだ筆箱付くの?」

私「付きます」

すでに沢山のご当地キューピーが付いた私の筆箱に新しい仲間ができるとウキウキしながら大仏キューピーを手に取り、売店の中を見ていると、ハートのストラップ(マグネットでくっつけてハートになるタイプ)を見つけた。

水色の紐とピンクの紐の先に、それぞれシルバーのハートの片割れが付いている。


北山くんにあげたい…!!


「これ○○と付ければ?」と茶化し合う男子たちの後ろでそのハートのストラップに目が釘付けになった私は、誰も見ていない隙を狙ってサッとストラップを手に取り、レジでお会計を済ませた。


買ってしまった…

付けてくれるかも分からないのに…


ドキドキしながら2人と合流して、部屋に戻る途中の廊下を歩いていると

うた「ハチ、キューピーの他に何買ったの?」

私「あ、えっと……ストラップ」

うた「へぇ〜、見せて?」

私「あ…うん」

ここで拒んだらうたの機嫌が悪くなるのは分かっていたので、これをきっかけに全て打ち明けてしまおうと少し投げやりな気持ちでうたにレジ袋を渡した。


うた「見つけちゃった〜♪…これ北山に渡すの?」


ハートのストラップの袋を摘み上げて、うたが私に聞いた。


私「うん……今日の朝、北山くんに告白したよ」


意を決して打ち明けると、2人がその場で立ち止まった。


うた「北山は何て言ってたの?」


私「……北山くんも好きだって…」


ハナ「…えっと、」


2人に挟まれて何も言えなくなっているハナの事などお構いなしに、私とうたの会話は続く。


うた「別に前から知ってたけど」

え…

うた「北山、王ちゃんとハチは両想いだから応援するって言ってたのに、ハチ簡単に乗り換えるんだもん。軽いなって思ってた」

私「乗り換えるって…」

うた「ムカつくけど別にいいんじゃない?お幸せに。早く部屋戻ろうよ」

ハナ「……」

私「……ありがとう」

普段とさほど変わらない態度のうたに安堵の気持ちもあったけれど、北山くんに惹かれながら北山くんの気持ちを聞いていたうたの心境を思うと、浮かれていた自分がひどく恥ずかしく感じた。


部屋に戻り、既にお互いの恋の話で盛り上がる女子たちの中に入ると、当たり前のように私たちの恋の近況も聞かれた。

「うたちゃんは、ゆうくんともう付き合ってるの?」

みんなそれぞれの布団の上であぐらをかいたり、枕を抱えたりしながら目をキラキラさせて聞いた。

うた「まだ〜。でも、付き合おうって言われたら付き合うかな」

「いいな〜!うちも〇〇と付き合いてぇ〜!」

「「あははは」」

輪の中心で羨望の眼差しを向けられるうたの事を向かいの布団からぼんやり眺めていると

うた「でも、ハチもね?…言っとけば?」

私「え…!」

「え?なになに?!王ちゃんと遂に?!」

うた「…王ちゃんじゃないんだよね?」

一気に私に注目が集まり慌てていると、うたが落ち着いた静かな声で言った。うたの隣で、気まずそうな顔をしたハナと目が合う。

「え!別の人ってこと?!誰?教えて!!」

私「……」

うた「言えばいいじゃん」

私「……北山くんが好きなんだ」

「マジで?!たしかに良い奴だもんね!」

うた「しかも両想いなんだよね?」

盛り上がる女子たちにさらに追い討ちをかけるようにニコニコ笑いながら話すうた。私と目が合うと目だけ真顔になった。

「きゃ〜!!マジ?!おめでと〜!!!」

いつから?とか、どっちから告ったん?とか、色んな子から矢継ぎ早に質問され困惑していると

うた「私にも聞かせて?」

とニコニコしながら私を見つめるうた。


“バスの中で好きな人の話しになり、教え合ったらお互いの事だった”

詳細は話さず簡単に説明しただけでも、十分なほど部屋の中が盛り上がった。

「「いいなぁ〜」」

アイコちゃんとなーちゃんが視界の端でハイタッチしているのが見えて、2人の方を見ると、両手でガッツポーズしながら口パクで「おめでとう」と言ってくれた。

怒っていないようで怒っていたうたに気持ちが沈みかけていた中で、嬉しそうな顔で「おめでとう」と言ってくれた2人に心から励まされた。


北山くんとは両想いになれたけれど、この先幸せなことだけじゃないだろう、ということをこの日少しだけ覚悟した。



written by ハチ

エピソード投稿者

ハチ

女性 投稿エピ 30