俺が野球選手でお前はアナウンサー23

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修学旅行

梅雨の時期ということもあり、当日は朝から雨が降っていた。

点呼を済ませ、保健室の先生や校長先生の話を聞いた後、それぞれのクラスのバスに乗り込む。

私とうたの席はバスの前方で、うたが通路側、私が窓側の隣同士に座っていた。

早々に車酔いでダウンした私は、窓にもたれながら目を瞑って、補助席に座っていた同じ班の女の子とうたの楽しそうな会話を聞いていた。時々うたの前の席に座っていた北山くんが会話に混ざり、笑い声が聞こえてくる。

北「…あれ、松井どうしたの?(小声)」

うた「酔って死んでるよ」

北「あ…そっか(小声)」

私の姿を見て察したのか、北山くんの声が小さくなり、再び同じ班の子とうただけの会話になった。


「間もなく休憩地点の〇〇SAに到着いたします」

眠って、目が覚めて、を繰り返し、ガイドさんのアナウンスが聞こえてうっすらと目を開けると、隣に座っていたはずのうたが反対側の窓際の席に寄りかかって眠っていた。

うたも酔っちゃったんだ…


北「お…起きた…」

声がした方を見てみると、私の前の席からひょっこりと顔を覗かせた北山くんと目が合った。北山くんは私が起きたことを確認すると、そのまま座って

「…もう大丈夫なん?」

と静かに聞いた。

私「うん。なんか、バスの中静かになっちゃったね」

北「みんなほぼ寝てるよ(笑)」

軽く後ろを見渡してみると、起きている人の方が少ないくらいだった。私たちの周りはみんな眠っていた。

私「……ほんとだ(笑)」


私と北山くんはそのまま、お互いに窓に向かってポツリ、ポツリと会話を始めた。


私「そういえば、なんでそこ座ってるの?」

北「席交換してもらった」

私「北山くんもバス酔い?」

北「いや……松井、大丈夫かなと思って」


え…


私「あ、うん…私はもう、大丈夫」

ドキドキが伝わらないか心配になりながら、なるべくいつも通りの態度で返事をすると、北山くんは私が眠っている間にうたたちとした話しを聞かせてくれた。

それから、私が窓に絵を描いてクイズを出したり、2人で一つの絵を描いて、下手すぎて、騒がしくならないように静かに笑ったり、外の景色に一緒に驚いたりして、久しぶりに2人でゆっくり話せる喜びを噛みしめた。

北「……」

私「……」

会話が途切れ、窓の外を眺めたまま暫く無言の時間が続く。


私「……北山くんさ、」

北「うん」


最初に沈黙を破ったのは私だった。


私「前、好きな人できたって言ってたよね」

北「うん」

私「誰なのかなって、気になって…」



聞いてしまった…!!



北「……じゃあ松井も教えて」

私「え…!」

北「俺も松井が好きなやつ誰なのかなって気になってたから…教えてくれるなら、俺も教える」

私「…わかった」

正直全然心の準備ができていなかったけれど、でもきっと今が伝えるタイミングなんだろうと思った私はこの瞬間、覚悟を決めた。

北「……同じクラスのやつ?」

私「…うん」

北「そっか」

私「……北山くんは?」

北「俺も、同じクラス」

私「そっか…」

いつもみたいに茶化したりせず落ち着いたトーンで話す北山くんは、私の知ってる北山くんじゃないみたいで異常に緊張した。


私「じゃあさ、せーので窓に出席番号書こう…!」

北「いいよ、分かった」

私「えーどうしよ待って…!やっぱり恥ずかしいかも」

いざ伝えようとするとギリギリで決心が揺らいで躊躇してしまう。そんな私に「俺はいつでもいいよ」と言ってくれた北山くん。


私「……よし!うん、もう大丈夫!ごめんね…!」

北「いいよ」

私「…じゃあ、いくよ?」

北「うん」


せーの



結露したバスの窓に2人が書いたのは


お互いの出席番号だった




written by ハチ

エピソード投稿者

ハチ

女性 投稿エピ 30