バレンタイン当日
「わぁ〜可愛い!ありがとう」
「美味しそ〜!ありがと♪」
学校にチョコを持って来るのは禁止されていたが、教室では朝から女子たちの間で友チョコの交換会が行われていた。
ハナは少し浮かれた様子で、放課後に王子くんに渡す予定のチョコを大事にランドセルの中へしまっていた。
うた「それ、学校で渡すの?」
登校時にすでにユウくんへチョコを渡し終えていたうたは余裕の表情でハナに尋ねた。
ハナ「今日の帰りに渡そうと思って…あ〜緊張する〜!ユウくん喜んでくれた?」
うた「うん。まぁ毎年渡してるんだけどね」
ハナ「いいなぁ〜」
うた「席隣なんだから、もう渡しちゃえばいいのに」
ハナ「それは無理!振られたら今日一日気まずいもん」
うた「振られないでしょ」
ハナ「分からないもん〜こわいよ〜」
私「ハナ、頑張って…!」
ハナ「ハチ〜!」
ギュッと私の腕にしがみついてきたハナを見て、本当に上手くいってほしいと思った。それと同時に、私も北山くんにチョコを渡したい気持ちになった。
教室の後ろの方で友達と楽しそうにじゃれ合っている北山くんとふと目が合い、北山くんは一瞬あっと閃いたような顔をした後、口パクで「チョコ渡した?」と私に聞いてきた。
黙って首を横に振ると「えっ?!」と驚いて、私の方までやって来る北山くん。ちょいちょい、と手招きされ、ハナや周りの人から少し離れた教室の隅まで移動する。
北「松井、今日王ちゃんに渡さないの?(小声)」
周りに聞こえないように声を抑えてくれる気遣いが嬉しかった。
私「うん…」
北「なんで?!チャンスじゃん…!(小声)」
私「…王子くんの事は、もういいの」
北「は?!なんで!?」
おそらく予想していなかったであろう返答に声を抑えるのも忘れて問い詰める北山くん。
北「お前…両想いなんだぞ?!(小声)」
私「……王子くんの事は、憧れとしての好きだった」
北「憧れ…?!」
私「見てるだけで満足。他の女の子と両想いになっても、頑張れ!って言える…」
北「え、どゆこと…?」
ん?と難しい顔をした北山くんに私は続けた。
私「それで私今、好きな人がいて…!」
北「…は?!好きな人?!」
再びの予想していなかったであろう返答にまた声が大きくなる北山くん。
私「うん…!その人の事は、誰にも渡したくないって思う。それくらい好き」
北「え…誰?」
私「教えない」
北「いいじゃん!!…え、同じクラス?(小声)」
きっと自分のことだなんて微塵も思っていないんだろうなぁとぼんやり考えながら、興味津々で聞いてくる北山くんに笑った。
私「北山くんにはもう教えないよ!」
北「ひどっ!俺、結構協力してたよな?」
私「ご協力ありがとうございました」
ペコリと丁寧にお辞儀してみせると可笑しそうに笑う北山くん。
北「…松井ってやっぱおもしれーな(笑)」
私「……北山くんは、最近どうなの?伊藤さん(4年生の時に好きだった人)以来の好きな人できた?」
北「あー、好きな人いるよ」
私「そ、そうなんだ…」
何でもないことのようにサラリと答えた北山くんの予想外の返答に今度は私が驚かされた。けれどモロにダメージをくらってしまい、上手く切り返せない。
北「なーんだ、松井はもう王ちゃんのこといいのかー!」
と言って友達の元へ帰ろうとする北山くんに
私「ちょっと!声大きいっ!」
と注意すると、いつものイタズラっぽい笑顔で私の方を振り返った。
なんだ…好きな人できたのか…
放課後
王子くんに声を掛けたハナは少し話した後で、うたと私の元へ駆け寄ってきた。
ハナ「王ちゃん今日もちょっとサッカーしてから帰るって…!」
うた「終わるまで待つの?」
ハナ「うん…どうしよ〜緊張する〜!早く渡しちゃいたいよ〜!」
私「サッカーみながら落ち着こう」
ハナ「そうだね…!」
教室の窓からサッカーをする王子くんを眺めながら「きゃーかっこいい!」「今の見た?」とはしゃぐハナ。私はそんな王子くんと一緒にサッカーをしている北山くんに夢中だった。
私「(ずっと楽しそうな顔してる…)」
うた「ハチは北山の事見てるでしょ」
私「!バレた…(笑)」
うた「だって好きって言ってたじゃん。あいつにチョコあげなくてよかったの?」
私「うん…まだ早いかなと思って」
うた「他の女子にとられても知らないよ?」
私「それはやだ…!」
結局日が暮れて、下校時刻になるまでサッカーをしていた男子たち。
ハナ「は〜どうしよう緊張する…!2人とも助けて〜!」
うた「一緒に行ってあげようか?」
私「え…あんまり人がいてもイヤじゃない?」
うた「いいじゃん別に」
ハナ「うーん、でも1人で頑張ってみる…!あ、今チャンスかも!!行ってくる!」
慌てた様子でバタバタと教室を出て行ったハナを見送って、うたがつまらなそうな顔で言った。
うた「なんで止めたの?あいつが振られるとこ近くで見たかったのに(笑)今から追いかけてみる?」
ゾゾゾッ
背筋が凍るとはこのことか…
私「私は帰るよ」
帽子をかぶり、ランドセルを背負って帰る支度をしていると「えー、じゃあ一緒に帰ろ」と渋々帰る準備をし始めるうた(門までは同じ方向)。
階段を降りると下駄箱で待ち構えていたハナと遭遇した。
私「あ、ハナ」
うた「ハナ…!どうだった…?!」
ハナ「告白できなかった」
うた「え、なんで?今からでもまだ間に合うんじゃない?ついて行ってあげようか?」
ハナ「ううん、大丈夫」
私「チョコは渡せたんでしょ?」
ハナ「うん…!王ちゃんとっても喜んでくれた〜!頑張って作ってよかった〜!!」
私「よかったじゃん!告白はいつでもいいじゃないか!家近いし、中学も一緒なんだし」
ハナ「そうだよね〜♪」
うた「王ちゃんモテるから、誰かにとられちゃうかもね」
うたはどうしてもすぐに告白させたかったようで、わざと不安になるようなことを言っていたが、完全に舞い上がっていたハナには届いていなかった。
ハナ「2人とも一緒に待っててくれてありがと♪」
うた「別にいいよ、北山がサッカーしてるとこ見れたし。北山カッコ良かったし」
ハナ「あはは」
私「(え……)」
ハナと別れてうたと2人で門まで歩きながら、さっきのうたの言葉を思い出して頭の中がモヤモヤした。
北山くんがサッカーしてるとこ、うたも見てたの?
確かにカッコ良かったけど、どういう意味で?
ユウくんのことは?
ハナは何か知ってたの?
門を出て、分かれ道に差し掛かったところでうたが足を止めて言った。
「あたし北山のこと気になってるんだよね」
続
written by ハチ
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