運動会も無事に終わり
涼しくなってきた秋の日の朝
ペットのバニーに挨拶をしてから登校をするのが日課だった私は、その日もいつものようにバニーのケージを覗いた。
私「バニー行ってくるよ〜!……ん?」
そこには目を瞑ったまま動かないバニーがいた。
呼吸をしているか確かめる余裕もなく慌ててケージを開けてバニーに触るが、既にいつもの温もりがなく、硬くなっていた。
私「お母さん!!バニーが!!!病院に行かなきゃ!早く来て!!」
急いで病院に連れて行けばまだ間に合うかもしれない
いつになく慌てた様子の私に何事かと母が駆けつけた。
母「…ハチ、だめだ。バニーはもう死んじゃってるよ」
抱き上げたバニーはギュッと硬くなって動かない。
悲しくて悲しくて、涙が止まらなくて「一緒に病院に行ってバニーが元気になるまで学校に行かない」と言って私がバニーから離れないでいると
母「もう戻ってこないんだよ!早く学校に行きなさい!!!」
と怒鳴られ、私は追い出されるような形で家を出た。
とっくに朝の会が始まっている時間だった。
ゴシゴシと涙を拭きながら上履きに履き替え、教室に着くまでになんとか普通の顔になるように無表情を装い、朝の会真っ最中の教室のドアを開けた。
ガラガラッ
担任「松井さん、おはようございます」
私「おはようございます」
担任「…お休みかと思いましたよ。体調は大丈夫ですか?」
私「はい元気です」
担任「はい。席について下さい」
先生はジッと私の目を見た後、何かを察したのか、何も聞かずにいつも通りに接してくれた。
自分の席に座ってノートや筆箱を机の中にしまっていると
北「遅刻してやんの(小声)」
私「………」
北山くんの冗談に応えられる余裕がなくて無視をしてしまった私は、ただ真っ直ぐ黒板を見つめながら、何も考えないようにしていた。
考えないようにすればするほどバニーの姿が思い浮かんでは悲しくなって、涙が堪えきれなくて、泣いていることがバレないように急いで机に突っ伏した。
北「え…どうした?大丈夫?」
周りに気付かれないようにこっそり声を掛けてくれた北山くん。
私「………」
北「…俺がからかったから?」
私「……違う、平気」
北「泣いてんじゃん」
私たちのやりとりに気付いた後ろの席の子が担任の先生に事情を説明し、私は朝の会が終わった後、図工室に呼び出された。
担任「…大丈夫かな?話せそうですか?」
私「はい」
担任「松井さんが遅刻してくるなんて今までなかったですからね。教室に入って来た時、泣いてたのかな?と思っていましたが…お家で何かあったのかな?」
私「……うさぎの…ペットのバニーが、死んじゃって…」
言葉にしたことによって悲しさが一気にこみ上げてきた私は、幼稚園児みたいに泣きじゃくりながら悲しい気持ちを先生に全て打ち明けた。
本当は一緒にいたかったこと、諦めずに病院でみてもらいたかったこと、先生は私の話しを最後まで遮ることなく丁寧に聞いてくれた。
担任「まず、そんな悲しい状況でよく学校に来ることができましたね…えらい!」
私の頭をぽんぽんとした後、先生は続けた。
「ペットを失う悲しみは私もとてもよく分かります。それだけ愛情をもって大切にお世話していたということですから、松井さんが悲しくなるのも当然です」
「ただ残念ながら…お母さんの言う通り、病院に連れて行ったとしても恐らくバニーちゃんは助からないでしょう」
薄々気付いていたけれど、第三者に改めてそう言われると現実を突きつけられたような気がしてやっぱり悲しかった。
私「……グスンッ…」
さめざめと泣き続ける私に教卓からティッシュの箱を持ってきて「これ使って」と渡す先生。早速2、3枚引き抜いて鼻をかむ。
担任「お母さんはもしかしたら、学校にいた方が松井さんの気が紛れると思って学校に行かせたのでしょう」
「それでもまだお家に帰りたいという気持ちがあるなら先生からお母さんに連絡して帰れるようにしますが、松井さんはどうしたいですか?」
私「……学校に残ります」
担任「分かりました。辛くなったらいつでも言ってくださいね」
私「ありがとうございます」
1時間目が始まるギリギリの時間に先生と教室に戻り、改めて1日元気に過ごそうと決意をした。
教室に戻るなり女の子たちから「大丈夫?北山から何か言われた?」と声をかけられ、私は今朝の出来事を話した。
一緒になって泣いてくれる子や「こいつが泣かせたのかと思った〜!」と北山くんの肩を叩いて笑わせようとしてくれる子もいて、少し気持ちが落ち着いた。
チャイムが鳴り全員が席について、隣の席から視線を感じるのでそちらを見てみると
北「おぉ…もう泣いてないよな?」
覗き込むようにして私の顔を確認すると、泣いていないことが分かってホッとしたのか、北山くんが話し出した。
北「松井いきなり泣きだすんだもん!マジでびびったわ…!」
私「なんか、北山くんが悪者みたいになってごめんね」
北「ほんとだよ!俺が泣かせたみたいな空気だったから、あの後女子たちにめっちゃ怒られたわ…!」
その時の光景が浮かんできて、申し訳ないと思いつつも思わず笑ってしまった。
北「こいつ笑ってるし!……まぁ、あんま無理しない方がいいよ!」
私「ありがとう」
その日はみんなが気を遣ってくれて、時々バニーを思い出して辛くなっても、気持ちが暗くなることはなかった。
続
written by ハチ
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