「ねえ夏菜、まだ逢坂くん避けてんの?」
「うっ……」
結局あの日は何も答えられず、残りのシュークリームをベンチに置いて逃げてしまった。
賢い人はいつも冷静だと思っていた。
蛍くんがあんなに顔を赤くするなんて知らなかった。
放課後、いつものファストフード店で友達と駄弁る。
最近の話題はもっぱら蛍くんのことだ。
「だってぇーー……好きかどうかなんて、わかんないよ」
これももう何度も言った台詞。
だって、本当にわからないのだ。
友達の好きと恋人の好きに、明確な境界線なんてない。
「でも、もうお菓子食べてくれなかったらやだなって思う…」
思わずこぼれたこの言葉は、今日初めて発したものだ。
「じゃあそうやって逢坂蛍に言いなよ!」
「それ、いつ…………?」
今日、終業式を終えてしまった。
明日からは長い夏休みなのだ。
「逢坂蛍の家でもなんでも行っちゃえば?」
「だめだよ、私、一学期の補習がある…………」
「……バカ……」
夏休みに入って数週間。
夏菜は夏空にそぐわないどんよりした気分を抱えたまま補習を受け続けていた。
ある日。
補習を終えて廊下を歩いていると、そこには蛍くんがいた。
「蛍くん!?なんで!?………あっ」
思わず驚きが声に出るが、その直後彼を避けていたことを思い出す。
「芹沢………」
蛍くんもどうしていいかわからず、2人はその場から動けなくなってしまった。
夏菜は覚悟を決めて、口を開く。
「蛍くん、ちょっといいかな………。今日、お菓子ないけど………」
少し前までは毎日2人で過ごしていた中庭に、あの時と同じように座る。
「「気まずい…………」」
珍しく2人の気持ちはシンクロしていたが、それを知る術は2人には無い。
「あのさ」
先に口を開いたのは夏菜だ。
「私、無い頭でいっぱい考えたんだ……。それでね、思ったんだけど」
「蛍くんがもうお菓子食べてくれないのは、いやだ」
蛍くんはそれを聞いた直後突然立ち上がり、夏菜の前へ進んだ。
そして、背をかがめて夏菜のおでこにキスをした。
「……………これは?」
「……………いや、じゃないです………」
顔が真っ赤になった夏菜は、伏せたままそう言った。
「じゃあ、芹沢の好きもそういうことだよ」
見上げると、夏菜と同じくらい真っ赤な顔をした蛍くんがいた。
「蛍くん、顔真っ赤だよ」
「…芹沢もだよ」
「なんで学校にいたの?」
「家だと集中できなくて、勉強しに」
「集中できないなんてことあるんだね」
「お前が避けるからだろ」
「えっ」
「え?」
「蛍くんかわいい〜〜〜〜!!」
「……………………。」
秀才の思わぬ一面に興奮し、すっかり元の調子が戻ったようだった。
「ねえねえ、夏休みどこ行く!?あ、私今日家でアイス作るけど食べにくる!?」
「…急にうるさい…」
夏休みはまだまだ続く。
夏菜は、蛍くんと過ごす夏を想像して1人盛り上がっていた。
written by 恋エピ公式
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