桜が咲くにはまだ早く、アスファルトと雪が混じる道を歩く。
3年間通い慣れた道、もう歩くことはない。
早起きして仕上げた髪の毛、いつもより少し濃いメイク、
使い慣れた香水、筆箱とメイクポーチ入ってないスクバに丈の短いスカートとダボダボなベージュのメンズニットと紺のブレーザー。
「よし、完璧」
晴天に恵まれた空を見上げる。
3年間の日々を思い出せば早くも涙がでてくる。
アイライン落ちるから泣きたくないのに。
いつも学校帰りに寄ってた神社、今はない私のバイト先だったコンビニ跡地、そして。
「…泣くの早いぞ」
私があげたマフラーが視界にうつる。
「おはよう」
「おはよ、みゆ」
待ち合わせ場所にいる彼に抱きつけば私が好きな柑橘系の香り。
「まだ始まってもないのに泣くの早いって」
「だってぇ…」
ポンポンと私の頭を撫でた後、差し出された手を握る。
「行こう」
手を繋ぎながら彼と一緒に歩く道。
最初の1年はその道を知らなくて、2年目は彼の背中を見つめながら歩いて、3年目は2人で歩きなれた道。
春夏秋冬、全ての季節の思い出が詰まってる。
下駄箱で上履きを履くために手を離せば名残り惜しさでその手を見つめる。
「置いてくぞ」
再度繋がれた手に驚いた。
今まで付き合ってたことは仲の良い友人以外には秘密にしてたから校内で恋人らしいことはしたことなかったのに。
「…いいの?」
「最後だし、見せつけとこ」
恥ずかしさと嬉しさで顔に熱がこもる。
教室の扉をあければ皆の視線が私達の手元に集まる。
「え、2人って付き合ってたの!?」
「う、うん」
「えぇー!知らなかった!!!教えてよ!!」
そんな言葉が飛び交う中自分の席に座る。
友達との落書きだらけの机を撫でれば最後のホームルームが始まった。
式典を終え、卒業アルバムにメッセージを書いてもらって、写真を沢山撮った。
「みゆ、打ち上げ何時からだっけ?」
「18時から予約してるよ!」
「おっけー!また後でね」
クラスメイトに別れを告げれば先生に挨拶をしてまわる。
バイト仲間だった後輩達から花束を貰ったりしてる間に時間は過ぎていき。
再び教室に戻った時には誰もいなかった。
「…幸せだったなぁ」
幼少期から学校にはあまりいい思い出がなかったけど高校で全て塗り替えられた。
親友や恋人に支えられて私の高校生活は最高だった。
「過去形?」
「…びっくりした…」
扉に寄りかかっていた彼が私の席に近寄ってくる。
「泣きすぎて目真っ赤じゃん」
「えへ…優は泣かなかったね」
「俺は地元組だからいつでも会えるしなぁ」
前の席に座った彼が私の髪に触れる。
「朝からずっと言おうと思ってたんだけどさ」
「なに?」
「可愛いすぎるから誰にも見せたくない」
「は…い…?」
「高校最後の思い出作ってあげる」
視界にうつったのはカーテンと優の綺麗な顔。
そして唇に感じた温もり。
「…3年間俺に恋してくれてありがとう」
「大好きだよ、みゆ」
その一言で私が大泣きしたのは彼との秘密で。
「私の高校生活最初から最後まで優でいっぱいだよ」
そう伝えれば彼は私の涙を指で拭いながら大笑いした。
幸せいっぱいな卒業式でした。
written by みゆみ
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