抱きしめさせてよ

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元になったエピソード

彼は余程疲れていない限りは、くっついて眠りにつく事を嫌がります。
近くで寝ることで、自分が知らぬ間に私を踏んでしまわないかが不安だ…と心配してくれていることを知ってはいましたが、なかなか一緒に眠れる機会もないので、どうしても近くで眠りたかった私は、彼が眠りについたあとにこっそり近くまで転がっていって手を繋いだりしていました。
数ヶ月後、本格的に一緒に住むことが決まり、お家を探している時のことです。
「一緒に住んだらどんなことをしてみたい?」
と、不意に彼に質問をされました。
彼と住んだらしてみたいことなんて山ほどあって…
彼が驚く様なご馳走様を作ってバイトから帰ってくる彼をお出迎えしたり、2人で夜更かしして彼の苦手なホラー映画を観て反応を見ていたかったし、いっぱい相談しながら2人好みの家具や家電を揃えていくのも楽しみでした。
それでも、1番に口から出たのは、やはりこれでした。
「一緒に暮らしたら、手を繋いでお話しながら眠ってみたいな」
でも彼は嫌がるだろうと分かっていました。なので寂しい気持ちを隠して、笑って誤魔化す準備も出来ていました。しかし…
「バカ、抱きしめさせろよ」
彼から言われた言葉は予想外で、いつの間にか少し俯き気味になっていた顔をパッと上に上げました。
目が合った彼は不敵ににやりと笑って、歩きだしました。
彼にとってはその場しのぎの口約束だったのかもしれないけど、その言葉が嬉しくて、思わずにやけながら彼の後を追いかけました。

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written by あや