「タスクー!おつー!」
バシッと彼の背中に手を乗せる。
「いってーな!イチカは力強すぎ。男かと思うわ。」
「ひど!顔面偏差値は高めなの♡」
「・・・」
ガコッ!
タスクは自販機からジュースを取り出す。
「オイ無視すんなマジ。」
「はは!」
缶ジュースを開けながら笑う彼は、タスク。
私、イチカの幼馴染で同級生。
幼稚園から高校まで同じになるとは思いもしなかったけど、タスクがいると、安心する。
いつも部活終わりに自販機の前でくだらない話をして、一緒に帰るのが日課。
別にいいのに、私のお母さんに暗いときは一緒に帰るように頼まれてるんだって。
意外と律儀なんだな。
まぁ、母親に頼まれたら断れないか。
タスクはハンドボール部の部長で、背はそんなに高くないけど、高校に入ってますます逞しくなった。昔、腕相撲は私の方が強かったのにな。
私はバドミントン部だから、普段は室内と屋外競技でバラバラなことが多い。
たまに体育館から、ハンドボール部に女の子たちがわらわらと群がって、タスクを見て色めき立っているのを見かける。
高校に入ってモテ始めたが、彼女は作らないらしい。
願掛けでもしてんのかな?
私がタスクの飲みかけジュースを取って、「いただきまーす!」と言うと、「利子つけて返せよ」と言った。
「えー。お金ないし、チューしてあげよっか♡」
「…うん。それでいい。」
ん?
サラッと何を言った?
「え?」
「自分が言ったんだろ。早くしろよ。」
「いや!あの…冗談だよ…そんな…キスなんて、だって、タスクは…」
しどろもどろになる私にタスクがジリジリと近寄ってきて、壁際まで追い詰められる。
「ちょっと!」
タスクの胸に両手を置いて押し返すけど、ビクともしない。
タスクが私の両腕を掴んで顔を近づけてきたーーー。
目をきゅっと瞑って覚悟を決めると、ふと身体が自由になった。
「ばーーーか!」
タスクは意地悪な笑みを浮かべている。
私は怒ってタスクをバチバチ叩いた。
タスクはお返しだよと言わんばかりに笑っている。
何事もなかったかのように、いつも通り一緒に帰り、駅の改札で別れるとき。
「お前、あーゆーこと他の男にすんなよ。あぶねーから。」
「え?なんで??」
「男は単純だし女なら誰でもいい奴もいんだよ。」
「ひど!」
「…つぎやったらマジでするからな。」
「え?」(駅が混んでてよく聞こえない)
「じゃーな。」
タスクが両手をポッケに突っ込んで背を向けて行ってしまう。
なんて言ったんだろ。
まいっか。大事なことならまた明日言うよね。
私も自分の帰り道の方へ歩き出した。
タスクの力つよかったな。
私の力では全く歯が立たなくて、今までふざけてた時は、やられたふりしてたってこと?
なんかむかつくな。
いつか、タスクも誰かにあんなふうに迫ってキスするのかな。
人気あるしすぐ彼女できるんだろうな。
そしたらわざわざ一緒に帰らなくて済むか。
そんなことを考えてたら、すごくモヤモヤしてきて、不安なのか寂しさなのか、悔しさなのか、自分では消化しきれない何かが心に引っかかった。
こんなこと今までなかった。
この気持ちを安心させるために、タスクの声が聞きたくてスマホを取り出してタスクに電話した。
「どした?」
タスクの声を聞いたら、ぜんぶ分かってしまった。
私がタスクに恋してること。
いや、ずっと恋してたけど、気づかないようにしてたこと。
「やっぱりチューで返していい?」
「…いいよ。」
電話を切ると、すぐに振り返って走った。
タスクがいつも通る公園の裏道。
大きな背中を見つけると、ドン!と体当たりに近いハグをした。
「自分で言ったんだからな。」
「うん。」
「してみろよ。」
「…うん。」
タスクの首に腕を回して、唇を重ねる。
その瞬間、タスクも腕を回して、唇をさらに強く押し付けた。
今までとんでもない遠回りをした気がする。
いつでも気づけたはずの気持ちを2人とも蓋をして大事に持っていたんだな。
2人の距離がゼロになったとき、想いが溢れ出て、なかなか離れることができなかった。
「すき。たぁちゃん。」
「おい、いきなりその呼び方やめろ。」
「あの頃から好きだったって今思ったから笑」
「俺も…」
私のお母さんに送るように頼まれた、というのは、なんと嘘だった。タスクが勝手にそうしていただけなんだって。
written by non37
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