高校生はじめての夏休み。
写真部の私は秋のコンクールに向けて校内で被写体を探していた。
テーマは「青春」
カメラが好きで1人でいることが多い私は、青春が何かをまず考えなければならなかった。
キラキラした恋?
今しか着れない制服?
熱い部活動?
どれもそれっぽいが直感的にグッとくるものがなかった。
とりあえずと思い、ボールの音が聞こえる体育館へ。
バスケ部が練習をしていたが、女子たちはちょうど終えるところだったようで、モップがけをしている。
そこへ1人の男の子が大荷物を持って走ってやってきて、入り口でピタッと止まり、体育館に向かい「お願いします!」と頭を下げ、中へ入っていった。
Tシャツにバスパンをはいているので、男バスの子かなぁと思っていたら、練習が始まっても、その男の子はずっとコートサイドでドリンクやタオルを用意したり、監督の指示でホワイトボードを持ってきたり、忙しく動いている。
え、まさか、マネージャー??
マネージャーといえば女の子と思っていた私は、驚いたと同時に、自然と彼に向けてシャッターを切っていた。
ボール拾いやパス出しをすることもあり、その度に誰よりも選手たちを鼓舞し励ましている。
選手たちも彼に一目置いていることがレンズ越しに伝わってくる。
撮影に夢中になっていると、急に彼が近寄ってきて、ズームしていないのに変だなぁ、と思った瞬間ーーーー
目の前にボールが勢いよく迫っていて、「きゃ!!」と、咄嗟にカメラを守るように自分が盾になった。
痛みが無かったので目をそっと開けると、レンズ越しに見ていた彼が目の前に!!
私に向かってきていたボールを手に持ちながら、「危なかった!大丈夫!?」と私の顔を覗き込んだ。
近!!
ドキッとした私は何も答えられず、彼は少し心配そうにしていた。
彼が「写真部が撮りに来るかもって聞いてるよ。誰を撮りにきたの?キャプテンの各務?1年エースは遊馬だし、ダンクが出来るのは我妻かな。」
紹介してくれるのは有り難いけど、「あなたを撮ってました」なんて口が裂けても言えない…。
「ありがとうございます。」と礼を言い、そっと顔を上げると、Tシャツの袖に名前が縫われていた。
「守谷…くん…」
「あ!そう!俺は守谷です。マネージャーしてます。」
「マネージャーって女の子だと思ってました。…あ。ごめんなさい!」
「あはは!謝んないでよ!うちは女子マネは許可されてなくて、俺は選手で入ったんだけど腰が悪くて諦めたんだ。今はサポートに徹してる。」
そう話す彼に後悔の色はなくとても生き生きしていた。
美しいなと思った。
その夜、帰ってから、いよいよ心を決めた。
『彼を撮る!』
その日から毎日バスケ部の練習に顔を出し、写真を撮った。守谷くんには、まだテーマを決めていないから、みんなを撮ると嘘をついた。
被写体は自然がいちばん。
レンズ越しに彼を眺めるうちに、彼の優しさや気遣い、サポートに徹すると言っていた覚悟を感じることができた。
彼の真剣な横顔を見ているうちに、今までに感じたことのない気持ちが芽生えてきた。
8月のお盆は練習が休みになるそうで、守谷くんが教えてくれた。今後の練習時間を教えるよと連絡先も交換した。
お盆休み、守谷くんからメールが届き、練習の時間かな、と思ったら、「花火大会に行かない?」というお誘いだった。
お母さんに「珍しいわね〜」とにやにやされながら浴衣を着付けてもらい、カメラもしっかり用意して花火会場に向かった。
待ち合わせの駅で守谷くんを見つけると、守谷くんも私を見つけてくれ「…浴衣だ。すごい可愛いね。髪型も似合ってる。」と選手に言うように自然に褒めてくれた。
顔がぽーっと赤くなるのが自分でも分かるほど恥ずかしく、わたしはただ浮かれていた。
花火を見ているとき、守谷くんが私の持っているカメラに手を伸ばし、「俺が撮ってあげるよ」と言って私を撮ってくれたけど、ピントが合ってなくて、顔を切れていて、つい笑ってしまった。
あまりに私がケタケタ笑うので、守谷くんが「じゃあ、コンクールの作品スッゲー期待してるから!」と言った。
そうだ。
まずい。
コンクールの写真は守谷くんだ。
彼がベンチで選手にアイシングをしながら必死に励ましてる1枚。
守谷くんを撮ってましたってバレちゃう!!
でも、佳作以上しか展示はないはずだ。確かに上を目指している。私の技術でそれはない!!被写体選びには成功したし、よくやったぞ私!
不安と安心がぐるぐるとわたしの頭を駆け巡る。
夏休みが終わり、夕方には涼しい風が吹き秋めいてきた。
コンクールの結果発表が全校集会で伝えられ、先輩の作品が佳作として、スクリーンに映し出された。
私のは選ばれなかったんだ。
複雑だけど、悔しさよりホッとした。
「次に、審査員特別賞はーーーーー」
私の名前が呼ばれた。
そしてスクリーンに映し出されたのは、守谷くん。
題名『信頼』
みんながあなたの行動と言葉を信じ、前に向かっていけるんだよ。あなたはみんなのヒーローだよ。
そんな想いを込めた。
全校生徒がザワザワする。
だってバスケ部の花形たちではないのだもの。
でも、そのザワザワは少し違ったようで、、、
「わかる!守谷いないと何もできん!」
「守谷が影のキャプテンだかんな!」
と、みんなが笑顔で守谷くんの肩を組んだり頭をくしゃくしゃしている。
よかった。
うれしい。
自分の作品が認められたことより、それが何より嬉しかった。
コンクールも終わり、体育館に行く用事がなくなってしまった。
守谷くんは相変わらず忙しいようで、メールもたまに安否確認のような内容だけ。
肌寒くなってきた2学期の終わり、帰ろうと写真部の教室で片付けていると、コンコンとノックの音。
振り返ると、守谷くんが立っていた。
「え!どうしたの!?」
「…」
「…(な、なに?)」
少しずつ守谷くんが私に近づいてくる。
「あのさ。俺の写真、撮ってくれてありがと。もしかして、他にも撮ってたのは俺ーーーなのかな?」
「う、うん。ごめんなさい黙ってて!でもーーー、」
「いいんだ!そうじゃなくて!見せてもらってもいいかな?その…他のも…。」
「え…」
躊躇ったけど、本人に見せないわけにいかず、撮り溜めたものを彼に渡した。
彼はそれをゆっくり見つめながらーーー
「あのさ、勘違いだったら恥ずかしいから、もしそうなら今すぐ君の前から消えるけど……俺のこと好きでいてくれてる?」
彼は目を落としていた写真から私へとゆっくり視線をうつす。
「えと…あの…は、はい。目が…離せなくて…ずっと。」
俯いて真っ赤な顔でいる私に、彼は「うれしい。」と言って優しくハグをした。
「コンクール入賞おめでとう。あの写真見たとき、告白されてる気持ちになったよ。それからもう、気持ちがあふれちゃって。俺も好きです。これからも一緒にいてください。」
「は、はい。」
お付き合いするようになって、彼は部活が休みの日は写真部に来てくれる。
「ねえ、今度の夏は海行こうか。俺が水着姿を撮ってあげるよ。」守谷くんはニヤニヤしている。
「守谷くん、そんなキャラだった?」
私が聞くと、守谷くんは私の唇に自分のを重ねて、「もちろん、男子ですから!」と言った。
きっと、またピンボケだからまぁいいか(笑)
written by non37
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