ポニーテールとオレンジキス

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やってしまった。
頭が真っ白とはまさにこのこと。



僕には高校2年の夏から付き合っている彼女がいる。
もうすぐ付き合って半年。

彼女はスラッとしていて、僕とあまり身長も変わらない。いつも背中まであるストレートの髪をきゅっと束ねて結っていて、元気いっぱい。竹を割ったような性格をしていて、男女共に友達が多い。思ったことをストレートに伝えることのできる強さと芯を持っている。僕にはないそんな強さと明るさに惹かれたんだ。

少し前から、彼女のそのハッキリとした物言いに、魅力を感じられなくなり、むしろ、自分が弱い立場でいるようで、複雑な気持ちでいた。
「公園デートばっかりじゃなくて違うところも探そうよ!」
(僕は同じ所の方が落ち着くなぁ)
「もっと考え方を変えたら効率的だよ!」
(効率が全てではないと思うけど)
「じゃあ意見聞かせて!」
(僕の意見が通るんだろうか…)

彼女が好きなはずなのに、いつのまにか彼女の良いところが分からなくなり、友人に愚痴をこぼすことも増えた。
「可愛さが足りない。」
「もっとにこやかに接してほしい。」
「意見ばっかりで疲れる。」

僕が愚痴ばかりこぼすので、ある友人がふと冗談で「お前にはさ、天然のおっとりタイプが似合うんじゃない?ほら!あの子みたいな!」と言った。
その視線の先にいる子は、とても白くて小さくて丸っこくていつもにこにこしているふんわり女子。
友人が続けて「それに!ほれ!あの巨乳には癒されますなぁ〜」と僕を肘で突きながらニヤリと笑った。
僕もなんだかヤケクソになって「だよな〜。癒されるよなぁ。あんな子が彼女だったら。」と友人と目を合わせるように答えた。

そのときーーーー、その友人の後ろにいたのは、紛れもなく、ポニーテールの僕の彼女。。。
僕が何が何だか理解できずにいる間に、彼女は何事もなかったかのように、僕らのいる校舎の階段踊り場をすっと通り、友人たちと談笑しながら階段を降りていった。

やってしまった。とんでもないことを。

いや、でも、少し本心に近い。
彼女にも僕が傷ついていることが伝わっただろう。
あんまりぞんざいに扱うと、僕にだって思うところがあるんだ!
彼氏のあんな発言を聞いたのに、しれっとしているなんて、彼女は本当に僕を下に見ているんだなぁ。

そんなことを思いながら帰路についた。
その日から、毎日届く彼女のメールは一切来なくなった。
学校で会っても挨拶さえしなくなった。

なんだよ。
僕が悪いのか?
友達との冗談を真に受けて怒ってるのか?
いつもならハッキリ言い返してくるのになんだ?

しばらくすると、彼女はポニーテールをやめた。
いつも同じ髪型だったから、急に髪を下ろすと、印象がだいぶ変わった。
サラサラのストレートな黒髪に切れ長の目とスラッとしたスタイル。周りの男子たちが急に色めき立つのが分かって、複雑な気持ちだった。
でも、ケンカしたわけでもなく、何をどうしたら良いのかわからないまま時が経った。


「ねぇ、なんでポニーテールやめちゃったの?」
体育の授業の当番で体育倉庫にボールを取りに行くと、彼女と友人が話していた。
思わず僕は身を隠して聞き耳を立てた。

「んー。付き合い始めた時ね、彼がポニーテールが好きだって言ってたの。だから、ずっとしてたんだけど、私のポニテじゃ駄目みたい。一回も褒められたことないや。だからやめちゃった!」彼女はケタケタ笑っている。

「…毎日のメールもデートの誘いも記念日のプリクラも手を繋ぐのもキスするのも、ぜーんぶ私からなの。この人、無理して付き合ってるのかなって本当はずっと辛かったけど、最近ほんとに私嫌われてたんだって分かって、ポニテはやめた。彼、もっと小さくてグラマーな子がいいみたい。だから、私はそろそろ振られると思う。…今ね…心の準備中なんだ…」
さっきまでケタケタ笑っていたと思ったら、次は目に涙をいっぱい溜めて震えている。

こんな彼女の弱気な発言を聞くのも、涙する姿を見るのも、僕は初めてだった。

彼女の友人が「まったく、アンタはいつも強がりなんだから!もっと素直に寂しいって言えば良いじゃん!」と彼女の背中をポンっと叩いた。

彼女は涙をポロポロ流して「彼は優しいから、私がこうしたいって言ったら従うよ?でも、これだけはそれじゃ嫌なの。無理強いじゃなくて、彼が本当に望んで私を求めてほしいの。わがままだけど…いつか、そういう日が来るかと思ってた。でも…もう…駄目。」
彼女は涙を拭うと、諦めたようにニコッと笑い、「あー!しんみりするの嫌い!」と、その話題を無理やり終わりにして倉庫から出て行った。


僕は、彼女のことを何も分かってなかったな。
僕が言った些細なことまでちゃんと覚えていてくれた。
僕の気持ちを最優先にしてくれている。
あんなに明るいのにこんなに傷つきやすくて繊細だ。
そうだ、彼女の立ち居振る舞いは、快活に見えて、いつも周りへの配慮と気遣いに溢れていた。


とんでもないことをしてしまった。
僕は彼女に甘えていたんだ。
彼女がこれまで、不安を感じていたことなど、僕は知る由もなかった。


その夜は、付き合って半年の記念日だった。
「ほんとだな。僕、彼女に電話もラインも自分からしたことないや。すげー緊張するもんだな。」

彼女の家の近くにある公園のベンチに座り、彼女に電話をかける。
コールが鳴っている間、何を言おうか考えていたことが次から次へと頭から消えていってしまい、心臓の音だけがうるさく残った。


「ーーーーーはい。」

「あ、あ!僕だよ。今、近くに来てるんだ。話したくて!それで!半年記念だし!」

「他に彼女にしたい子がいるんじゃ?」

「いや!彼女は…あれは冗談…というか、冗談でも駄目だけど、なんていうか…その…ごめん。ほんとにごめん。会いたいんだ。ちゃんと話したい。来てほしい。待ってるよ、来てくれるまで。」

それだけ精一杯伝えると、ただただ俯いて、彼女が来てくれるのを待った。

どれくらい経っただろう。
もう僕とは会いたくないのかも…と思い始めたとき、小さな足音が近づいてきた。
僕がハッと顔を上げると、ポニーテールの彼女が、そこに立っていた。
いつもはTシャツにパンツなのに、今日はふわふわしたブラウスとデニムのミニスカートを履いている。
すごく可愛くて、しばらく声が出なかった。
「ーーーーなに?」
彼女が気まずそうに聞く。

僕は、これまでのことを必死に謝り、今も彼女が大好きだと伝えた。

彼女は黙って聞きながら、次から次へと涙を落とし、「…ほんとに?」と言った。

僕はベンチから立ち上がり、彼女を力強く抱きしめた。
「ポニーテールもその服もすごく似合ってる。可愛い。」
そう言うと、彼女にやっと笑顔が戻り、「もうひとつあるよ」と僕にキスをした。

付き合ってから初めて彼女とキスしたあと、「なんか…美味しい」と言った僕に、彼女が「オレンジリップだよ。気に入った?」と恥ずかしそうに聞いてきたのを思い出した。

「もう一回ちゃんと確かめる。いい?」
僕から彼女への気持ちを込めたキスをお返しした。

今度、彼女をバーベキューや遊園地に誘おう。
僕から手を繋いで、何度も好きだと言って、彼女を笑顔にするんだ。

written by non37

エピソード投稿者

non37

女性 投稿エピ 8