真面目でクールな後輩からカッターシャツを借りた日。

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今までで一番、切ない終わり方をした恋です。


私の高校では体育祭に3年生がランドセルを背負って、小学生に扮して踊るお楽しみ種目がありました。
その種目では男子が夏服で着ているようなカッターシャツを着て踊らなければいけませんでした。


しかし、うちには男兄弟がおらずカッターシャツがなく、誰かに借りないといけません。
そこで真っ先に浮かんだのが松本くんでした。


松本くんは地元が一緒で、小学校から一緒の1つ下の男の子。
色が白くて、背が高くて、細くて、真面目な子。


かっこいいけど、クールなので、あまり女子が近寄れない雰囲気の人でした。


でも私も勉強が好きで真面目だったので、たまに話しかけてくれて、心なしか親しくできていると思っていました。


ただ、お互い少し大人になったこともあり、彼が同じ高校に入って再会する頃には昔ほど親しく話せなくなっていました。


しかも、会えるのは最寄駅の自転車置き場で一緒になったときだけで、コミュニケーションは挨拶をする程度。


だから、
「いやいや、挨拶する程度の仲でしかないから貸してくれないかも・・・」
と思いましたが、
「でも松本くんにアタックするにはもうこのチャンスしかない」
と覚悟を決めました。


もう高校3年生の9月でしたから。


次の日、自転車置き場に行くと松本くんが居ました。
勇気を出して、カッターシャツを貸して欲しいことを伝えると


すると、いつものクールな真顔で
「ああ、いいですよ」
とあっさり承諾してくれました。


もうその日は駅で会った友人に、
「松本くんがカッターシャツ貸してくれるって!!」
と飛びつき、


学校に着いたら親友に
「ねえ、松本くんが・・・・・!」
と自慢しまくりました。笑


次の日、松本くんはカッターシャツを紙袋に入れて持ってきてくれました。
挨拶以上のコミュニケーションをとるなんて、本当に久々でした。
もう、体育祭に感謝です。笑


家に帰ってからカッターシャツに袖を通したときのことは今でも鮮明に驚いています。
ニヤニヤが止まりませんでした。


体育祭ではもちろんそのシャツを着て、ランドセルを背負って、踊りました。


そして、体育祭が終わった週明けに、洗濯したシャツを持って駅まで向かいました。
自転車置き場にはいつものように松本くんが居て、
「カッターシャツ返すね、ありがとう」
と渡しました。


そのとき、手が触れて一瞬困惑してしまいました。
多分顔が赤くなっていたと思います。


それと同時に思い浮かびました。
「返すだけじゃなくて、お菓子とか、何かお礼もすればよかったな・・・」
と。


そこで、
「今度、改めて貸してくれたお礼渡すね!」
と伝えました。


松本くんは
「分かりました」
と言って去っていったと思います。


いつもの真顔ではなく、少し微笑んでいたのを覚えています。



それから彼と会うことはありませんでした。


後から彼と同じクラスの女の子に聞いたのですが、あの月から学校に来なくなり、学校も辞めたそうです。
少し前から、学校が楽しくないことを先生にほのめかしていたとか。


松本くんは地元が同じで、真面目と言う共通点があったからこそ、挨拶程度の関係だったけど他の人より関係が築けていると思ってました。


だからこそ、学校が楽しくないことも、担任の先生ともめていることも、学校を辞めたいと思っていることも、何も知らなかったことがショックでした。


それから10年以上が経ち、未だに松本くんとは会っていません。
同じ地元の子から、あれから大学に進学し、就職もしたと聞きました。


元気で暮らしてるのは良かったけど、私は1つ心残りなことがあります。


それはカッターシャツのお礼を渡すねと言いつつ、何も渡さないまま彼が消えてしまったこと。


もし、いつか再会できたらご飯でもご馳走して、それをお礼にし、さらに「あのとき好きだからシャツを借りたんだよ」と伝えたいです。

written by あいり

エピソード投稿者

あいり

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