先輩のダウンジャケット

コンテンツ名とURLをコピーする

今日もカウンター越しに私は先輩を見てます。

レストランでホールのバイトをしている、私には密かに気になっている人がいます。キッチンで料理も作る2つ上の先輩です。気づいたら自然と目で追っていて、目が合いそうになるとすぐに逸らします。
先輩とは仕事内容がまるきり違うので仕事上以外の会話をすることはできません。終わる時間もバラバラなので、私は先輩のことを全然知りません。

営業が終わり、売り上げの確認をしていると。大事なレシートを1枚紛失してしまったことがわかりました。慌ててゴミを確認しようとしたところ、ゴミは回収され、ごみ収集所に持っていかれていました。その時のゴミ運び担当は偶然にも先輩で、先輩にわけを話すと、ゴミ袋の中から一緒に探してくれることになりました。1月の冬の夜は、上着を更衣室に置いて慌てて出た私にはとても寒いものでした。ゴミ収集所までは距離があり、歩いている時『寒くない?』と気を使ってくれたことに少しキュンときました。『平気です』と嘘をついた私はまだ恋に不器用でした。

15個程のゴミ袋を前に私たちは、レシート探しをしました。2人きりになるこの倉庫での空間はドキドキが止まりませんでした。10分が経過した所で倉庫外から入ってくる外気は冷たく、中もひんやりとしていました。寒そうな私を見かけ
「やっぱり、これ着て」
と言われ、渡されたのは先輩の黒のダウン。
『私が着たら先輩寒くなっちゃうので先輩が来ててください』
と返したところ
「俺は大丈夫だから着てて」
と肩にかけられました。半開きだった倉庫扉もすぐに閉めてくれました。2人だけの閉鎖空間で心臓の音が倉庫の中に響き渡りそうなほど、胸はドキドキとしていました。悴んだ手と緊張のあまり袖を通すのも難しいものでした。先輩の心遣いとダウンの暖かさを感じながら、
「 このレシート?」
『違います』
「これは?」
『ん〜違います』
の繰り返しをして15分。
「あっ、これじゃない!?」
『それです!!』
無事レシートが見つかりまり、目を合わせて笑い合いました。ホッとなり、難を逃れることが出来ました。

レストランまでの帰り道も、緊張で上手く話せませんでしたし、ダウンを返す時もありがとうございました、と言うだけでしたが
先輩との距離は前よりも近くになれたのかな。と1人浮かれています。
まだまだ私の片思いは続きそうです。

written by らん

エピソード投稿者

らん

秘密 投稿エピ 9