6月のよく晴れた土曜日の午後。今日は仕事のない休日だ。
俺は一人暮らしをしているアパートのベランダに出て、澄んだきれいな青空を見ながら、ずっと禁煙していた煙草に久しぶりに火をつける。
フーッと空に向かって煙を吐き、拡散していく様子を眺める。
『あー!また隠れて煙草吸ってる!健康に悪いから、もう止めなって!』
ふと、部屋の中からそんな声が聞こえた気がした。
煙草を吸うと、いつも思い出す。これが辛いから、煙草を吸うことを止めたのだ。
大学生の頃、俺には彼女がいた。同じ大学のサークルで仲良くなった子だ。初めのうちは、お互いの部屋を行き来したりしていたが、いつの頃から一緒に住むようになってた。
彼女は、一緒に住むようになってから俺の健康を気遣うようになった。カップ麺や外食ばかり食べ、煙草を吸う俺の姿が心配になっていたのだろう。
俺は俺で、適当な性格だから聞き流してちゃんと受け止めようと努力はしていなかった。
大学卒業後、一緒に住んでいたアパートからではお互いの職場が遠くなったので、またそれぞれ一人暮らしをすることにした。しばらくお付き合いは続いたが、お互いの仕事が忙しく中々会えない日が続いた。
ほどなく、俺たちはちゃんと話し合い、お互いの事を考えてお別れした。
お別れした直後は、普通に生活していた。というより、その直後から急に仕事が忙しくなってあまり考える余裕はなかった。毎日へとへとになりながら生活していると、その時々で彼女の存在を感じることが多くなった。
『ゴミはちゃんと分別する!出す直前にやらなくてもいいようにしようよ!』
『まーた、脱ぎっぱなしじゃん!洗濯してあげないよー?』
『ほら、掃除機掛けるからそこどいて?』
彼女と付き合っている時は、信頼していたから特に何も感じなかった。お別れした後、寂しい気持ちに駆られることが多くなった。煙草はその一つで、思い出すことが辛くなったので禁煙した。
お別れしてから2年。2か月前くらいに久しぶりに彼女から連絡が来た。結婚することになったそうだ。
サークルのみんなも来るから、もしよければ結婚式に出席してほしいとのこと。
その時は出席すると答えた。
後日、結婚式の招待状が届いた。それを見た瞬間、楽しかった大学生の頃を思い出してしまった。
同時に実感した。まだ彼女の事が好きだったのだということに。
招待状は、欠席で返信した。
——今日は、その彼女の結婚式の日だ。一生で一番の日が良い天気に恵まれて良かった。そう心から思った。
欠席した代わりに、結婚会場へお祝いの電報を送った。
内容は当たり障りのないお祝いの言葉だ。ただ、最後に一言だけ付け加えた。
『結婚おめでとうございます。出席できず、申し訳ありません。お二人の新たな門出を祝福し、ご多幸とご隆盛をお祈りいたします。P.S.昔言われたけど、ようやく禁煙しました。』
written by あもん
Sponsored Link
「聞いて目の前に浮かぶ、ショートストーリー」を目指して、頑張って作ります。