『新しい特等席の花火大会』

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「続いて県内のニュースです。今夜開催を予定していた〇〇〇川花火大会は、新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑みて中止となりました。本日午前中に大会組織委員会がコメントを公表し・・・」

ああ、今年の花火大会は無しか・・・

私はひとり、夕飯を食べながらTVを眺めている。夕方のニュースが流れている。新型コロナウイルスの影響で、毎日気持ちが滅入るニュースばかり流れているが今のニュースも私にとっては正直悲しい。


以前は、気軽に友達と夜に食事に行って、お酒を飲みながら職場の愚痴や不平不満をさんざん言い合ったり。

以前は、競争率の高いアイドルのコンサートチケット争奪戦を勝ち抜いて、満員の会場で大騒ぎしたり。

以前は、友達と仕事のお休みを合わせて国内の旅館に泊まって、地元の美味しい料理に舌鼓を打って、観光地を巡ったり。

以前は、気になる男性と待ち合わせをして遊園地や水族館にデートに行ったり。


簡単にできると思っていたことが、こんなにもできなくなるなんて予想していなかった。

まだ以前の暮らしには戻らないのか。いや、以前のような暮らしになんて戻れるのだろうか・・・

そう思っている時だった。

「花火大会は中止となりましたが、有志団体が『地元を応援したい』との思いで、本日19時から5分間という短い時間ですが花火を打ち上げる予定だという事です。花火会場には集まることはできませんが、県民の皆様には各自感染対策を講じたうえで、ぜひご自宅等から観覧いただきたいですね。」


私は驚いた。たった5分間だけど、毎年見てに行っていた花火を今年も見ることが出来るなんて、私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。

時計を見ると18時58分。あと2分で始まる!
私はすぐに部屋のベランダに出て、花火大会が行われる予定だった川の方向を見た。

すると、隣の部屋の窓が開く音がした。
壁で仕切られているため姿は見えないが、私と同じように隣の住人が花火を見に出てきたらしい。

私はベランダの柵から少し身を乗り出して、声を掛けた。

「はじめまして!花火見に来たんですか?」

隣の住人は男性だった。同い年くらいに見える。私がいきなり出てきたものだから少し驚いていたが、すぐににこやかに話してくれた。

「そうですよ。いまニュース見てたら、5分間だけ花火打ち上げるって言ってたから」

「あ、私もおんなじニュース見てました!」

すると、ドンッ!という大きく響く音がした。

「「あ、始まった!」」

私と彼はすぐに打ちあがった花火を見始めた。


部屋のベランダから見る初めての花火は、

毎年見ていた花火とは見え方が違うが、

新しい特等席から見る花火は、

毎年見ていた花火より一層きれいに見えた。

written by あもん

エピソード投稿者

あもん

男性 投稿エピ 11

「聞いて目の前に浮かぶ、ショートストーリー」を目指して、頑張って作ります。