犬みたいな彼と、最後の夏の思い出

コンテンツ名とURLをコピーする

高3の私には1人だけ、すごく懐いてくれている楠田くんという後輩がいます。
私を見かけると遠くからでも「せんぱーい!」と笑顔で手を振ってくれる、1年生の可愛い男の子です。
「ふふ、あいつ本当に犬みたい」
いつも一緒にいる友達はそう笑っていますが、私はそんな彼が可愛くていつも同じように笑って手を振り返しています。
部活も委員会も違うのに、こんなに話しかけてきてくれる後輩がいるなんて。

それから時間は過ぎ、彼にとっては高校最初の、私にとっては高校最後の夏休みがやってきました。
夏休み前に楠田くんに「みんなで海へ行きませんか?」と誘われて、私の友達や共通の友達と一緒に海へ行きました。
ところが当日、私は友達とはぐれてしまい、砂浜を1人でさまよっていました。
いつもと違ってみんな水着だから余計にどこに仲間がいるか分かりづらくて。
「どうしよう…」
スマホも持っておらず不安になっていたら…。

「せんぱーい!」
いつもの聞き覚えのある声がどこからか聞こえてきました。
「楠田くん?」
振り返ると、私の方に走ってくる彼の姿がありました。
「やっと見つけた! そこら中探したんですよ!」
いつもの笑顔に安心して、私は思わず泣きそうになりました。
「見つけるのが遅くなってごめんね?」
初めて私にタメ口で話しかけた彼はなんだかいつもよりずっと大人に見えました。

楠田くんはすぐにみんなにメッセージを送り私を見つけたことを知らせると、元気をなくした私に「少し話していきませんか?」と言ってそのまま海に膝が浸かるくらいのところまで歩いていきました。
後を追いかけて海に入ると、楠田くんはいきなり私に水をかけてきました。
「うわっ!? ちょっと何するの」
「はははっ元気出ましたか?」
どうやら元気のない私を元気にしようとしてくれたみたいです。
しばらく水をかけあった後、急に楠田くんが静かになりました。

「先輩…いや、咲希さん」
「…な、なに?」
いつになく神妙な雰囲気の彼に名前を呼ばれたことに、少し戸惑っていました。
「俺、咲希さんのことが好きです。付き合ってください」
波の音だけが大きく聞こえて、これは夢なのかと疑ってしまいました…。
だって。
だって、私もいつの間にか、楠田くんが好きになっていたから。
「私も、浩人くんのことが好きです」
ずっと話しかけてきてくれて、迷子になった私を見つけてくれた。
そんな彼とこれからは恋人同士として、一緒に過ごしていきます♥️

written by 日向 葵

エピソード投稿者

日向 葵

女性 投稿エピ 13