キミとの一生忘れられない夏。

キミとの一生忘れられない夏。

毎年夏休みになると、いつも田舎のばあちゃん家へ遊びに行く。


ばあちゃん家は、扇風機しかないから窓をいつも全開にしていて、蚊にさされたり、ちょっと大変なとこはあるけど……


畑で育てた、新鮮なとうもろこしとスイカを食べれるから、そんなこともへっちゃら。


あと近所に住んでいる女の子の日南(ﾋﾅﾐ)ちゃんって子が、俺と同じ年で。


昔からばあちゃん家に俺が遊びに来ていると、日南ちゃんも顔を出しにきて、よく一緒に水で遊んだりした。


おたがいに思春期を迎えてからは、前のようにフレンドリーに遊ぶことはなくなったけれど。


花火とかお祭りには、今でも一緒に行ったりする。


今年は何するのかな、って。
日南ちゃんと会うのを、毎回楽しみにしている俺がいる。


……これって、恋に近い感情なのかな。


でも日南ちゃんは会うたびに可愛くなっているし、学校でも男子にモテるような雰囲気だ。


もしかしたら、好きな人とかもいるかもだし。


俺のことは、昔から仲いい友達くらいにしか思ってないんだろうな。


はぁ……切ない。


そんなことを思いながら、スイカを食べていると、玄関でおばあちゃんが誰かと話す声が聞こえてきた。


｢なゆたー、ひなちゃんが来てくれたよ。
早くこっちさ来てらっしゃい｣


ばあちゃんに呼ばれてすぐに立ち上がり、玄関へダッシュで向かう。


すると、麦わら帽子に白のフリルワンピース姿の日南ちゃんが、こっちを見てニコッとする。


こんな風に日南ちゃんは、ハートをわし掴みにしてくるから、いつも平静を装うのに必死な俺だ。


｢これからヒマワリ畑に行くんだけど、なーくんも一緒にどうかなって｣

｢いいよ。ばあちゃん、ちょっと行ってくる｣

｢はいはい、行ってらっしゃい。
2人とも気をつけて行っておいでね｣


笑顔のばあちゃんに見送られ、ヒマワリ畑までの道のりを2人ならんで歩く。


ばあちゃん家から少し遠ざかったころ、日南ちゃんが口を開いた。


｢なーくんのおじいちゃん、今病院で入院してるでしょ。早く元気になってほしいから、ヒマワリ畑で摘んだお花あげたら、喜んでくれるかなー？｣

｢ああ、絶対喜ぶよ。じいちゃん、ヒマワリ好きだから｣


俺が笑うと、日南ちゃんも嬉しそうに笑顔を広げた。


じいちゃんのおかげで、いつもより打ち解けられた気がした。


ヒマワリ畑に着くと、大きなヒマワリと小さなヒマワリが、綺麗に咲いていた。


俺たちは、小さい方のヒマワリをお見舞いの花に選ぶ。


ここのヒマワリ畑は、日南ちゃんの親戚が育てているらしく、好きに摘んでいいんだとか。


摘んだヒマワリを両手に抱える日南ちゃんは、まるで妖精みたいに可愛らしく。ヒマワリにも負けない美しさに、俺はずっと見とれていた。


ヒマワリ畑から帰ってきた後は、おばあちゃんにもヒマワリをあげて花瓶に飾った。


晩ごはんを食べ終わって、浴衣に2人で着替える。


ばあちゃんは洗い物があるからと、気を利かせて2人にしてくれた。


家の庭から打ち上げ花火を見つめていると、ふいに日南ちゃんがぼそっと呟く。


｢今年もなーくんと過ごせて、とっても幸せな夏になったな｣

｢……夏、だけ？｣

｢えっ？｣


俺がすねたような口調で言うと、とうぜん日南ちゃんはきょとんとした反応をする。


｢俺は夏だけじゃなくて、他の季節も日南ちゃんといたい、な……」


なんだか告白みたいになってしまい気まずくしていると、


｢……わ、私も｣


日南ちゃんから意外な言葉が返ってくる。


2人で照れながら、夜空に咲く花火を見つめ、いつまでも手をぎゅっと結んだ。


周りでは、黄色いホタルが飛び回っていた。


こうして、今年の夏はよりいっそう忘れられない夏になった。

written by :*✿ひめりぃ✿*: