私は、今年で30歳。
アイドルにハマって十数年。J-POPアイドルに始まり、今ではK-POPアイドルを応援している。いわゆる「推し」がいる生活だった。
私の友達も同じ趣味の子が多かった。一緒にライブにもよく行ったし、それで足りないときはライブDVDを見てひたすら応援していた。それは結構楽しかったし、私にとっても充実した毎日だった。
だけどそんな友達も、いつの間にかそれぞれの家庭を持っていたり、子供が生まれたりしていた。
でも別に、それでお互いに会う回数が極端に減ったりはしなかった。
会う時は子供も連れてきてくれたり。私をお家にお邪魔させてくれたり。
子供はホントに可愛い!笑顔がはじけているんだもの!
友達もよく言っていた。「自分の子供は可愛いよー!子育ては大変だけどね。」
私にはいつそういう出逢いが来るのだろうか。子供の頃に思い描いていた、結婚年齢はとっくに過ぎた。幸せな友達の顔を見ると、ちょっと焦る気持ちがあるけど、ほんの少し面倒な気持ちもある。
それはたぶん私の性格が原因の一つ。
今までも、彼氏がいたことはあった。
でも、人前だろうと、二人きりだろうと、彼氏にベタベタ甘えるのは苦手。私の予定とか、友達のことを詳しく聞いてくるのも苦手。休みの日だからと、頻繁にデートするのも苦手。あと、私の好きなアイドルに意見を言ってくるなんてことが起きた日には戦争ものだ。
私は面倒くさい奴なのだ。
当然、彼氏とは長続きしないし、なんなら喧嘩別れを経験したこともある。
だから、私が結婚するのも難しいだろうし、私の子供をもつなんて夢のような話だ。
友達にそんな話をすると、「行動しなきゃ何も変わらないよ!たった1ヵ月でもいいから婚活アプリでもやってみなよ!」と言われた。
ということで、婚活アプリに登録。どんなものかと思っていたが、意外と気になる人は多かった。ただ、すぐに会おうする人やライン交換しようとする人も多かった。
お互いを良く知りもしないのに、そんなこと出来なかった私は、そういう人たちとは静かにフェードアウトした。
「中々いないなー」と思っていたある日、一人の男性のプロフィールに目が留まった。“ななみね”という名前で年下だけど真面目で、優しい性格が出ている顔をしていた。なんとなく気になったので、いいね!をしてみた。
するとすぐにメッセージが返ってきた。内容は「はじめまして!いいね!ありがとうございます!」だった。
とりあえずこう来たらいつも決まって「こちらこそありがとうございます!よろしくお願いします!」と返していた。こういうメッセージの後には決まって・・・とはならなかった。その男性はずっとアプリ内でやり取りしてきた。お話も楽しいし、特に私の好きなアイドルに興味を持ってくれてちょっと嬉しかった。
段々と、興味を持ってきたので勇気を出して「一緒にご飯でも行きませんか?」と誘ってみた。
そしたら「いいですよ!ぜひ!」と返事が。ちょっとだけ頬が緩んだ気がした。
デート当日。場所は私の行きつけの焼き鳥屋さんだったから、遅れては相手が困ると思い早めに入店した。
きょろっとお店の中を見回しても、そのほかにはグループのお客さんしかいなかった。
その時初めて気が付いた。「私は相手の顔を知っているけど、相手は私の顔知らない!」
少し不安になったが、とりあえず席に着いて待つことにした。
すると、店の扉が開いた。男性の声が一人分。私に近づいてくる足音。
「あの、“しょうこ”さんですか?」
掛けられた声に私は振り向く。アプリでよく見た、あの真面目で、優しい性格が出ている顔の男性だった。
この男性と会うのは初めてだったのに、何故か初めて会った気はしなかった。
あれから30年。
今日は夫の定年退職の日。夫の好物ばかりを作って、食卓に並べた。昨年私が定年退職したとき、夫が私の好物ばかりを作って待っていたことにびっくりしたから、今日は1年越しのサプライズ。
特に張り切ったのは、大好物の焼き鳥。今日はタレを一から作ってみたから、夫の反応が楽しみだ。
準備している時に、ふと出逢った頃のことを思い出した。
あの時、お互い会うのは初めてだったのに、初めて会った気がしなかったのは何故だったのか。
当時はアプリでやり取りをよくしていたからだと思った。
でも今改めて思うと、「運命の相手」ということだったのではないだろうか。
家のインターフォンが一回鳴った。30年続いた夫の「帰ってきたよ」の合図。
私は玄関へパタパタとかけていく。
今日で最後のインターフォン。でも、明日からも鳴り続ける。
「おかえりなさい。お仕事、お疲れ様でした。」
私は、今までと変わらず明るくお出迎えした。
written by あもん
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「聞いて目の前に浮かぶ、ショートストーリー」を目指して、頑張って作ります。