ねぇ、恋人やめない?〜雨がつなぐふたりの記念日〜

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デートがそろそろ終わりに近づく夕方頃。

ふたり並んで街路樹を歩いていると、急に優羽(ユウ)が足をとめた。

不思議になって私も一緒にとまると、「場所変えていい?」と優羽に言われ、近くのベンチに移動することにした。


自動販売機で買ったジュースを飲む私に対して、優羽はまだ一口も口付けていない。

それどころか、けわしい顔でずっと足元ばかり俯いている。


「ねぇ優羽、変だよ?どうしちゃったの、急に」


さっきまで笑顔で楽しくカフェデートしていたのに。
今じゃ雨までパラパラと降ってきた。


「……あのさ、」
「うん?」


ようやく口を動かす優羽がベンチから腰を上げて、私と向き合うように正面に立つ。

そして真剣な眼差しを向けた。


「俺たち……もう、恋人やめない?」
「え、?」


そんな事を突然告げられた私は、頭の中が真っ白になっていく。

持っていたミルクティーのボトルが、思わず手から落っことしそうになった。

それはつまり、別れ話で


「優羽は、私と恋人やめたいってこと?」
「……うん、まぁ……そうなるかな」


傘を差すほどでもなかった雨が、先ほどよりもいっそう強くなる。
まるで私の心と重なるかのように。

優羽は、元の友人関係に戻りたいっていうこと?

もし別れたい原因が私にあるのなら改善する。
だから、もう一度やり直させて欲しいと。

そう言おうともしたけれど、やめた。

もし理由が違って、他に好きな人ができたなんて優羽の口から直接聞いたりでもしたら、もっと大きなショックを受けそうだからだ。

だったら、このまま何も聞かないで別れた方がまだマシなんじゃないか。

ワガママを言って嫌われるくらいならって。
臆病な思いが色々と混ざり合って


「……わかった、別れよう。私たち」


結局は物分りのいい台詞を選ぶ。


──そういえば。
私たちが出会った日も、ちょうどこんな雨だった。

その時、ふたりはまだ学生で。

モテる優羽は常に女の子に囲まれていたから、とても学校では気軽に話しかけられるような存在の人じゃなかった。

でも、そんな関係が一変したのは雨の日のこと。

街中で雨やどりしていた優羽を偶然見つけた私は、声をかけて自分の傘を差し出したのが始まり。

傘を返すのはいつでもいいからと言う私に、優羽はお礼もしたいからと連絡先を交換した。


いつしか、傘がなくてもふたりカフェで話をするようになっていた。

学校で見かけた時から、優羽のことは気になっていたけれど。

優羽との共通点を見つけるたびに、より気持ちが熱くなっていった。


でもまさか、出会いの雨が別れの雨になるとは思いもしなかった。

順調に進んでいる、本気でそう思ってたから。

今日だって、付き合って4年記念日だというのに。

ふたりを繋いでくれた雨が、今ではなんだかきらいにもなりそうだ。


「……私、そろそろ行かなきゃ」


これで会うのはきっと最後。

もっと伝えることは山ほどあるはずなのに。

口に出したら、全てが止まらなくなってしまいそうで。


「ちょ、実結(ミユ)!待って」


背中を向けて歩きだす私に、優羽が背後から呼びとめる。

優羽は、別れた後も私と友人関係を続けたいのかもしれない。

でも私はもう、優羽のことを友達以上としか見れない。

このまま優羽といたら、きっといつまでもこの恋を引きずる。

優羽ほど、器用に付き合える自信なんて私にはとてもない。

優羽と新しい人との恋を祝福できるほど、私は出来た心の広い女じゃないから……。


「ねぇ、実結ってば!」


絶対、振り向いちゃだめ。


「俺の話きいて!」


絶対に振り向かない。

自分に何度も強く言いきかせ、歩くスピードだけを速める。


「ねぇ、お願いだから!止まって」


……無理だよ、もう。

優羽と話したら、悲しみが倍増するだけじゃない。
お願いだから、これ以上つらくさせないで欲しい。

さよならする雨が、いっそう嫌いになるから。


「実結!」
「っっ、」


ついに腕を強く掴まれてしまった。


「ねぇ、なんで今さら引き止めるの……?」


……もう意味がわからない。
優羽がわからないよ、全部。


「……恋人やめにするんじゃなかったの?」
「うん、やめるよ」

「ならどうして……」
「まだ実結の返事聞けてないから」

「え……返事?ならさっき……」


意味がわからずにいると、優羽が自分のポケットの中に手を突っ込み始める。

そして何やら小さな箱を取りだすと、私の前にソレを差し出した。


「──恋人から、俺の奥さんになってくれませんか?」
「え……え、?」

「俺、実結と付き合って思った。これから先も、俺の隣にずっといてほしいのは実結だけって」
「え……わ、私……別れなくていいの?」

「ふふ、別れないでよ。ずっと俺のそばから離れないで。俺には実結しかいないから」


……ずるい、そんなの。

ずっと堪えていた涙が、今になってポロポロと溢れ出てくる。


「俺と、結婚してくれますか?」
「はい──っ」


優羽からのプロポーズに、私はとびきり最高の笑顔で頷いた。


──恋が始まった雨。
──プロポーズされた雨。

また雨の日に増えた、ふたりの特別な記念日。


これからも、どうかふたりの記念日がずっと長く続きますように──…。

written by :*✿ひめりぃ✿*:

エピソード投稿者

:*✿ひめりぃ✿*:

女性 投稿エピ 41

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