最後の夜、君とキスした

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卒業式から1週間後。

明日、私は18年間育った地元を出る。

良い思い出も悪い思い出も沢山ある街を私は出ていく。

夜23時。

ダンボールに囲まれた自分の部屋の天井をみつめる。

寝て起きたらもう、しばらくみんなに会えない。

もちろん、大好きな彼にも…。

自分で決めたことなのに涙が出る。

”優”

”会いたい”

トーク画面に送ったメッセージはすぐに既読がついて。

”俺も”

その一言をみた瞬間。

私は初めて夜中に家を抜け出した。

もう通ることのない道を走って行く。

彼の住んでる家が見えた瞬間。

「みゆ!!!」

息をきらした彼の姿がみえて。

「優…!!」

抱きついた。

いつも寄り道してた神社の階段に座りこみお互い無言だった。

伝えたいことは沢山あったけど、上手く言葉にできない。

「…時間が止まればいいのに」

絞り出して発した言葉は震えてた。

「…寝て起きたら離れ離れなんて…嫌だよ…」

泣くつもりなんてなかったけど痛いくらいに強く握られた手を離すことなんて想像したくなくて。

「…みゆ…」

私の涙を指で拭いながら抱きしめられる。

「2年…俺が20歳になったら」

「結婚して下さい」

「もう二度と…離したくない」

そう言って彼は私の耳に手をかけた。

カチッと音がして自分の耳を触れば見慣れないピアスがついてた。

「俺の誕生石で作って貰った。アメジストって言うんだよ」

「アメジスト…?」

「これで俺はいつでも一緒にいれるから」

そっと微笑んだ彼の瞳も潤んでて。

「指輪はまだ買ってあげれないけど…みゆがこの先も俺といてくれるならさ。これ俺につけてくれないかな?」

そう言って渡されたのはルビーのピアス。

「これ…もしかして」

「そ、これはみゆの誕生石」

震える指でそっと柔らかい彼の髪に触れ耳元に貰ったピアスをつける。

「…結婚式の指輪交換みたいだなって思ってバイト頑張った」

そう言えば彼は最近いつもバイトばかりだった。

でもそれも全部私のため…。

「…ありがとう…優…ありがとう!」

「みゆ…?」

私の頭を撫でながら彼の腕の中に閉じ込められる。

「……行くな…行かないで…」

とても小さな彼の呟きと共に私の髪を濡らす雫。

「このまま閉じ込めて…攫って、2人でどこかで暮らせたら幸せだけど…俺達はまだ子供すぎるから」

「2年間…頑張って勉強して堂々と攫いにいくから」

見上げた彼はやはり涙目で。

「愛してる…愛してるよ、俺の大事な婚約者様」

彼と最後にしたキスは涙の味がした。

満月の夜、思い出の場所で。私達は。

「…私も…愛してる」

おでこをくっつけながらお互い泣き腫らした顔で。

笑いあった。

耳元にある紫色とピンク色の誕生石がキラリっと光った。

引越しの朝。

新しい土地に向かいながら誕生石の意味を調べた。

アメジスト 真実の愛。

ルビー 愛。












あれから数年がすぎて。

私の耳にはアメジストとルビーのピアスがあの頃と変わらず光り続いている。

written by みゆみ

エピソード投稿者

みゆみ

秘密 投稿エピ 14

私の短い人生の中で起きたまるで恋愛小説の様な体験を誰かと共有できたら嬉しいです。 小説サイトで活動してます。ただの社畜です。