ネクタイに込められたそれぞれの叶わなかった想い

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むかーしむかし。
とても忙しく、やりがいのあるお仕事をしていた時の悲しい恋の話です。

私の同僚に、あずさというすごく仕事のできる子がいました。
仕事は完璧、上司にも頼りにされ、英語も堪能で次の人事にはニューヨークへ転勤になるだろうといわれていました。
その割にはプライベートは抜けていて、作ったお弁当を忘れてきたり、ペットが飼えないお家に住んでいるのに、捨て猫を見捨てられなくて困っていたり、とにかく愛嬌があってかわいいキャラクターのあずさ。
職場のだれもがあずさのことを好きで、頼りにしたり頼りにされたり。
もちろん私もあずさが大好きでした。
そんなあるとき、あずさがこっそり私に打ち明けました。
その時、私たちより少し年上の課長、北原さんのことが好きだと。
北原さんはこれまた仕事ができてイケメン独身、でも彼女の気配はない。
あずさが北原さんのことを好きなのは、なんとなくわかっていました。
そして、北原さんもあずさのことを好きだろうなと思いました。
誰が見てもお似合いのカップルで、付き合っていないのがおかしいくらい。
北原さんも、次の人事異動で部長になるのではといわれていました。

そして、人事異動の発表の日。
あずさはニューヨークへ転勤。短くても2年間のニューヨーク在住が決定です。
あずさが私に言いました。
『私、北原さんに告白する。だめでもいいから、伝えないでニューヨークへは行けない。』
私だってあずさのことを応援したいし、北原さんが断るはずもないと思って大きくうなずきました。
そして、あずさが北原さんへのプレゼントを選びにいくのに付き合うことになりました。
でも、私は少し気になっていたのです。
昇進決定とささやかれていた北原さんの昇進がなかったことに…。

あずさが選んだのはきれいな色のネクタイ。
今は上司でもある北原さんに似合う、深い青色。チョコレートを添えて、2月14日、バレンタインデーで北原さんの誕生日に渡すことになりました。
あずさは転勤の準備で忙しく、北原さんが何度かまとまった休みを取っていることに気づかない様子です。
昇進の件も含めて、私はなんとなく気になっていました。

バレンタイン当日。
あずさに、頑張ってねと伝えて、私は自分の彼氏とバレンタインデートに出かけていました。
あずさ、うまくいったかな。
付き合いの長い彼氏には、あずさの話をたくさんしていたので、彼氏も『どうなったかな?うまくいってるよね♪』と楽しみにしている様子。
あずさはその日から、転勤による準備のため有給に入るため、職場では会えませんでした。
職場で見かける北原さんはなんだか元気がなく、私は結果がどうなったのか気になっていましたが、あずさからは連絡がなく、北原さんにも聞けず過ごしていました。
そして、引っ越しの準備も落ち着いたから、と出発前のあずさから連絡があり、久しぶりにあずさと会うことになりました。
私は、二人はうまくいったのだと思っていました。
『あずさ、北原さんと付き合うの?遠距離になるけど二人なら大丈夫だね!』
すると、あずさは首を横に振ります。
『君とは付き合えないっていわれたの…。』
いつも明るく元気なあずさが、しょんぼりと落ち込んでいます。
私だって疑問です。遠距離だって言っても、こんないい子のあずさを振るなんて。
というか、明らかに北原さんだってあずさのことが好きだった。
社外の人からおかしなクレームをつけられた時にはすぐにあずさを助けたし、あずさが好きなお菓子を差し入れでもらった時には必ずあずさに取っておいてあげたり…とにかく、大好きビームが出ていた!(女の勘)
振られるのはおかしい、何か事情があるのでは…。
『いいの、北原さんの負担にはなりたくないし、きっとすてきなひとがいるのね』というあずさ。
腫れた目や、ちょっとの間にやせてしまったあずさを見ると、全然大丈夫じゃない気がする私。
でも、私がどうこうできる話しではないのです。
理不尽な、と思いつつもせめてあずさがニューヨークで楽しく過ごせますようにと祈る私でした。

あずさの出発、三日前。
職場では、本当によくやってくれたあずさの出発をみんなで見送ろうという計画の話をしていました。
そこに、北原さんが現れました。『僕も、お見送りに参加していいかな?』
職場のみんなは事情を知らないので、どうぞどうぞ、人数多いほうがいいですから!と大歓迎!
予定の確認が済んで、それぞれが持ち場に帰った後、こっそりと私は、思わず北原さんに聞きました。
『なんでですか。北原さん、なんであずさのこと受け止めてあげなかったんですか!』
私の配慮のない質問に、北原さんは優しく微笑み、『ごめんね』と語り始めました。

余命、3か月 

北原さんは、一人で戦っていました。
最初は、なんだか視野が狭くなってきたのだと。
気が付いた時にはもう手遅れで、余命3か月だといわれたのだと。
本当は退職しようと思った。でも、会社からはいられる間はいてほしいと言ってもらったので、昇進はもちろん受けなかった、会社に迷惑が掛かってはいけないからね。
絶対に、あずさには言わないで。
彼女の、重荷になりたくないんだ。
ぽろりと涙をこぼしました。
北原さんも、あずさを愛していました。


そして、あずさ出発の日。
職場の同僚や上司たちが見送りに集まりました。
北原さんも来ています。
北原さんの胸には、あの日あずさが選んだネクタイが!!
あずさも気が付いて涙目になっていました。
まるで、あずさを応援するかのように。いつだって、あなたを想っている。
なんだかそんなメッセージのように感じました。
あずさは、北原さんが余命わずかと聞いたら昇進を蹴ってニューヨークへ行くのもやめたでしょう。
あずさの将来を考えて、それを伝えなかった北原さん。
それぞれの気持ちが切なくて、号泣する私を同僚や彼氏がからかっていました。

あずさはニューヨークでも大活躍で、2年の予定が5年になり、結局今もニューヨークにいます。
二人が付き合っていたら、今頃幸せな家庭を築いていたのかな…。
実は北原さん、治療がうまくいったのか、今もお元気です。
視力は失ってしまわれましたが、地元に帰られて実家でご家族と暮らしています。
結ばれなかったあずさと北原さん。
それぞれがそれぞれの道を歩いています。

written by しろっぷ

エピソード投稿者

しろっぷ

女性 投稿エピ 8

実は結構な高齢(笑) むかーしの記憶を辿り綴っています。