「お待たせ」
夜9時、待ち合わせた彼はラフな格好で現れた。
「どこいく?」
「カラオケでいーよ?ご飯食べたし」
ご飯食べてからカラオケでオールが私達のいつもの流れ。
でもこの日は連絡とりあったのが遅くもうすでにお互いご飯を食べ終えていた。
彼の好きな所は歌が上手くて優しくて、少しお調子者なところ。
いつも切ないラブソングをわざと歌って涙腺の緩い私を泣かせてくる。
「もうすぐ終電出ちゃうけど…この後どうする?」
日付がまわる直前。カラオケ屋をでた私達は外にいた。
「……明日、裕は休みだっけ?」
「おう。でもみゆは夜勤だろ?」
「うん…」
帰りたくないなぁ。
そんな一言が言えなくて少しの沈黙が広がる。
「あー…休みながらカラオケできるところ行く?」
「そんなとこある??」
「あるよ」
「えー。どこー?」
聞き返すとスマホに触れながら何かを検索する彼。
「ん…ここ」
画面に出された文字は恋人達がよく行くホテル。
「……いいよ…」
なんとなく目を逸らしながら歩き出す彼の背中を追った。
初めて入るそこは広くて大きなソファーに飛び込めばゆっくりと沈んでいく。
「着替える?服のままじゃ寝れないだろ」
「着替えとかあるの?」
「多分お風呂場の方にある」
そう言って一緒に室内を探索して着替えと化粧を落として部屋に戻ればソファーの上で寛ぐ彼、
「テレビみていい?」
「んー。いいよー」
隣に座れば買い込んできたお酒を飲んで2人並んでテレビをみつめた。
「ふぁ…ねみ」
「寝る?」
といっても大きなベッド1つとソファー1つなので寝る場所が…。
「俺ベッドもーらい」
「え、ずるいー。レディーファーストって言葉しらんの?」
「レディーいないからな」
そう言ってボフンと顔面に飛んできた枕。
「裕ー???」
眉間に皺を寄せソファーにあったクッションを投げ返す。
「ってぇ…なんだやるか??」
そこから何故か全力で枕投げが始まり。
「はぁ…はぁ…疲れた…」
「お前…コントロールなさすぎ」
「うるさ…」
2人揃ってベッドに倒れ込む。
「…でも本当に疲れたからもう寝よっか…」
ソファーに戻ろうとすれば腕を掴まれた。
「……もう一人分ぐらいスペースあるからこっちで寝な。風邪ひいたら困るし」
そう言ってポンポンとシーツを叩く彼。
「…お邪魔します…」
枕が高くないと落ち着かない私がソワソワしてると長い腕がおりてきて腕枕をしてくれた裕。
「………寝た?」
「寝た」
「起きてるじゃん嘘つき」
「早く寝ろ」
「…私頭重たいから腕どかしていいよ?その代わり枕ちょうだい?」
「やだ」
「なんで」
「枕1つにつき1個お願いきいてくれるならいいけど?」
「えー…まぁいいよ。なーに?」
「俺のことどう思ってる?」
「…今1番一緒にいて楽しくて信頼してる人だよ」
「ふーんじゃあさ」
グッと寄せられた腕と共に彼の胸の上に転がる。
「いった…」
「キスして?」
「え…?」
暗闇の中そっと私の髪に触れる彼と目が合った。
「………なら目閉じてよ」
目を閉じたのを確認すればそっと頬にキスをした。
「…そこじゃないんだけど」
「うるさい…黙って」
「もう1回。ちゃんと」
「もう無理」
「なら枕あげれないわ」
「なんなの…」
「みゆ」
手がおりてきて頬に優しく触れられる。
「……ずるい」
そっと触れるだけのキスをすれば彼の頭から枕を抜き取り背を向ける。
「おやすみ…」
「…………」
背中越しに感じる彼の温もり。
なんでキスしてなんて言ったの?
ねぇ…その理由を教えて。
私達は…付き合っていないのに。
written by みゆみ
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私の短い人生の中で起きたまるで恋愛小説の様な体験を誰かと共有できたら嬉しいです。 小説サイトで活動してます。ただの社畜です。