この手は、ぜったい離さない。〜キミと一生分の愛を未来に繋げて〜

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お葬式の朝。


親族たちが皆、棺の中に花を入れていく。


自分の番が来て、葬儀社の人から花を受け取り、棺の中を覗き込む。


その瞬間、目を疑った。


なぜなら、そこに入っていたのは私の彼だから。


え、なんで琉輝(るき)が?
どうして?


頭が混乱するなか


「琉輝!」


彼の名前を必死に泣き叫ぶ。


その直後、ぴかんと急に眩しくなる視界。


眼底まで眩ませる強い光に薄ら目を開けると、目の前に広がるのは白い天井。


ここはいつもの病室だった。


「あ、梓(あずさ)さん起きられましたか?
夢にうなされていたので少し心配になって」


朝の食事をテーブルに置きながら、看護師さんが心配そうな顔をする。


「すいません……大丈夫です、」


あぁ、今日も。この病室に琉輝はいない。


こんな夢ばかり見るのは、琉輝に会えなくなってからずっとだ。


ちなみに琉輝とは付き合って3年。


春には二人大学を卒業して、結婚する約束も交わしていた。


それと同時に私は体調を崩すようになった。


デート中にも気分が悪くなる回数が増え、心配になった私は病院で検査を受けた。


結果は乳癌。


それもあちこちに転移しており、手術しても治療不可能。


その事を伝えると、琉輝は受け止めきれていない様子で崩れるように床に座り込んだ。


その姿に溢れ出しそうな涙をぐっと堪えて、唇が震えながらも琉輝に視線を向ける。


──『私ね、残りの命長くてあと3ヶ月なんだって』


本当は言いたくなかった、悲しませたくないから。


でも、未来の幸せを考えるなら。


このまま私と一緒にいるべきじゃない、だから。


──『別れよう』


そう考えて出した決断に『少し時間が欲しい』と、琉輝に言われてから今日で2週間。


ほんとうは最後にもう一度だけ会いたい。


でも好きだけじゃどうしようも出来ないから。


このまま自然消滅した方がいい、そう思っていたら──


「梓!遅くなってごめんっ」


午後の面会に琉輝が息を切らして突然やって来るなり、箱をぱかっと開いて中の指輪を見せる。


「これ、どうしたの!?」


私は目を大きく見開く。


「ずっと会いに来れなくて、寂しい思いさせたよね」

「いや、それよりも指輪!」

「バイトで貯めて買ったんだ。梓と結婚したいから約束早めようと思って。それでずっとバイトだったから、病院に来る時間までは作れなかったんだけど。良かった、間に合って」

「バイト?」

「言ったでしょ、俺に時間をくれって」

「え、でもそれは別れることを考える時間が欲しいってことじゃ」

「そんなわけないよ。梓と別れるなんて選択、俺の人生にはないんだからね」

「なんで……だめだよ、そんなの」


嬉しいけど、私にはその気持ちだけでもう十分すぎるくらいだ。


「なんでよ。俺にとっては、梓と別れる方が絶対だめなんだけど」

「このまま結婚しても、ずっとは一緒に居れないんだよ」

「うん。だからって梓を離す気はないよ。梓と二人じゃなきゃ幸せになれないって。会えない時間が続いてからも強く再確認させられたから病気ごと愛させてほしい」


まっすぐな眼差しに気持ちが揺らぎそうになり、私は目を反らす。


「結婚を……そんな簡単に決めちゃだめ」

「簡単じゃない、いつだって本気だよ。梓とは」


でも喪失だけ残して琉輝を独りになんて


「出来るわけない……っ」

「出来るよ!」


琉輝に強く抱きしめられる。


「俺だって梓のこと誰よりも大好きなんだから。別れるとかそんな辛いこと言わないで」

「だ、って」

「これから先だって梓しか愛せないし、愛したくない。梓だけなんだよ、こんなにも幸せ与えてくれるのは。今もこれからもずっと梓は俺の愛しくて特別な人だから、俺にも幸せ与えさせて?」


泣いて喋れない私を落ち着かせるように、琉輝は頭に手を添えて優しくなでてくれる。


「幸せに時間なんて関係ないんだよ。今が幸せだと思えたら、それはもう幸せだし。過去も未来も今で出来てるんだから、今幸せに生きなきゃ未来で絶対後悔するからさ。幸せな過去にしてよ、梓が。じゃなきゃ幸せになれない、未来でも俺は」


やっと呼吸が整ってきた。


「どうしてそこまで私のこと……」

「俺さ、父さんを火事で亡くした時、思ったんだよ。予測出来てたらもっとしてあげられることたくさんあったんじゃないかって、今もずっと後悔してることの方が多くて」


後悔……。


「完全に後悔を無くすことは出来なくても、今を幸せにすることは出来ると思うからさ」


そう言うと抱き合う体を離して、琉輝が私の頬を両手で包み込んだ。


「ていうかね、梓にプロポーズ断られて、それをずっと心に引きずって生きていく方が幸せになれない、一生立ち直れないの。ねぇそれでもいいの、梓は」

「……や、だ」

「でしょ?幸せ願うなら俺の奥さんになるべきなんですよ、梓さん。じゃあ改めて言わせて。俺と結婚してください」

「はい……っ、こんな私で良ければお願いします」


琉輝が私の左手をとり、薬指に指輪をはめる。


しばらく眺めていた視界が滲み、こぼれ落ちた涙で指輪がきらりと光る。


こんなに嬉し涙を流すのは、人生で今日が初めてだ。


「ありがとう。琉輝の奥さんになれて世界一幸せです」

「ふふ、もっと幸せにしてあげる。宇宙一ね。梓を幸せにしてあげられることが、俺のいちばんの幸せだから」


目を閉じたら、眠りから一生覚めないんじゃないか。


死を迎えるよりも、死に怯えて生きる今の方が苦しくて余命を知ることは残酷なんだって。


頑張ったって、どうせ生きられない。


もうこんな痛みに苦しみながら生きていたくない。


どうして私ばかりと絶望的になった。


でも違う、私だってちゃんと幸せなんだ。


余命を抱えながらも、周りのサポートを受けて1日過ごしている。


明日を迎えられるのは、周りの支えがあってなんだと。


こんなにも温かく見守ってくれる人が、今日も私のそばにいてくれる。


人はいつどこで命を失うかなんて分からないけど、今を幸せにすることは出来る。


どんな時も今が最高に幸せなんだと思える人生にしたい。


未来を幸せに繋ぐには、いつか過去になる今日を幸せに生きなきゃ後悔を残すのだと。


琉輝は、私に大切なことを教えてくれた。


モノクロの世界に虹をかけてくれた。


勇気の魔法みたいに、琉輝の言葉が私を幸せへと導いてくれる。


純白ドレスも新婚旅行も子育ての夢も、叶えられない願いだけどね。


今なら幸せだって心から思えるの。


3ヶ月もしたらこの世界からいなくなってしまう私に、君は一生そばにいると愛の誓いをくれた。


最後まで君のそばに居れるんだ、居ていいんだって。


こんなキセキみたいな幸せ、私がもらってもいいのかな。


「そうだ。写真撮ろうよ、記念に」

「記念?」

「そう。二人が夫婦になった記念日」


そう微笑むと琉輝はスマホを取り出して、私の肩を引き寄せる。


──やっぱり好きだな、この横顔。


なんて見とれたあと、私も画面に顔を向けて口元を緩める。


「はい、撮るよ。ハイチーズ」


いつか君は忘れてしまうかもしれない。


私の声も、香りも、体温も。


だけど、この写真だけはせめて、幸せの証として未来の琉輝に残せたらいいな。


私も忘れないよ、今日という日をずっと。


君と過ごせた時間すべてが、私の宝物だから。


生きて欲しいと言ってくれた君のためにも、生きることを諦めない。


今が幸せなら、きっと過去は幸せになる。
そう信じて。


今日も私は大好きな君とまっすぐに生き続ける。


残りの時間は笑って生きるんだ、大好きな君と──…

written by :*✿ひめりぃ✿*:

エピソード投稿者

:*✿ひめりぃ✿*:

女性 投稿エピ 41

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