いつもの席に君はいない

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これは私が社会人1年目だった頃の話です。

私はあるテーマパークが大好きです。社会人になりお金も稼げるようになり、夢であった年間パスポートを購入し通い詰めていました。
ある時SNSを通じて共通の趣味を持った一人の男性と仲良くなり、実際にテーマパーク内で会う事になりました。
お互い顔も分からなかったため、認識できるように「○時、△△(レストラン名)の2階席の奥で」と約束をしました。

SNSで仲良くなってから実際に会うというのは初めてではなかったため、さほど緊張はありませんでした。
ですがその人を見つけた時、急に体が緊張したのを覚えています。完全に一目惚れだったのだと思います。黒いホンブルグ・ハットが印象的でした。

実際に会ってから更に仲良くなるまで、時間はかかりませんでした。休みが被ればテーマパークで一緒に遊びました。会う時はいつもレストランの2階席で待ち合わせていました。またテーマパーク外でも時間を共にしていました。本当に楽しい時間でした。

しかし、知り合ってから約一ヶ月後、彼から突然「来月留学する。実は半年前から準備していた。」と告げられました。

最後の思い出にと、海外への旅行を提案してくれました。
海外のテーマパークは初めてで不安だらけでしたが、彼のおかげで楽しく過ごせました。反面、タイムリミットが迫っている事に焦っていました。

想いを伝えるべきなのか、伝えたら困らせてしまう。と。

もしかしたら彼も同じだったかもしれません。
旅行中好きな人はいるか聞かれたり、恋愛話も多くありました。
お互いが心中を探り合っている状態でした。
しかし結局、旅行中も想いを伝えられませんでした。

時間が過ぎるのはあっという間で、彼の留学前日になりました。最後は勿論いつものテーマパーク、いつものレストランの2階席で待ち合わせ。
いつも通り遊んで過ごし、あっという間にお別れの時間になりました。帰ろうと駅に向かうと、改札前で「やっぱりもう少し辺りを散歩したい。」と彼から提案してくれました。
散歩中も想いを伝える事なく、ただ「寂しくなるな。」と言う事が精一杯でした。

時間も遅くなり駅の改札へ入りました。電車は反対方向だったためホームでお別れです。
もうすぐ電車が来てしまう。と、意を決して伝えました。

「前に旅行で好きな人がいるか聞いてくれたよね。私の好きな人はね、いつも黒いハット被ってる変な人だったよ!」と伝えました。そしたら彼は少し涙ぐんで「そりゃあ変だ!」と笑顔で応えてくれました。

彼と会ったのはそれきりでした。時々ふと懐かしくなって、テーマパークに遊びに来た時はいつものレストランの2階席へ足を運んでしまいます。彼の姿はありません。

written by yuu

エピソード投稿者

yuu

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