ずっと、忘れないよ

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彼のことが気になったのは、中学3年生の時でした。
髪が短く、陸上部に所属、気が強くてガサツな性格だった私は、同学年の男子からは怖がられていて、さん付けで名前を呼ばれていました。

「みさと!」

呼び捨てで呼んでくれたのは、3年生の時、一緒に学級委員をしてくれた楓くんただ1人。
彼はサッカー部に所属していて、優しくて、落ち着いていて、みんなからの人気者でした。
一緒に学級委員の仕事としてクラスの話し合いをまとめたり委員会に出る時も、彼は私に対しても優しく接してくれて、他の男子とは違うな、いいなぁと思っていました。

3年の秋頃、気持ちを抑えきれなくなり、一度彼に私から告白しましたが、受験も控えていたこともあり断られてしまいました。
気持ちを伝えた後も、以前と変わらず優しく接してくれたのは少し辛くもあり、それ以上に嬉しかったのを覚えています。

そんな彼とまた出会ったのは20歳の頃。成人式の年でした。
私の住んでいる地域は、中学生3年生の時に学級委員をしたメンバーが成人式をまとめるようになっていて、その知らせの葉書が来たことでした。

成人式の準備を済ませ、成人式前日。
会場の準備の最中、私は重いものを足の甲に落としてしまいました。歩くのもやっとでしたが、急いでいたこともあり、少し足を引きずりながら座席に案内カードを置いたり、花を設置したり、なんとか準備をこなしていました。
すると、楓くんが近寄ってきたので、

「どうした?何か分からないことある?」 

と聞くと、

「いや、足引きずってるのが心配で。さっき足怪我してたよね?大丈夫?本番は明日なんだから、無理すんなよ」 

と声をかけてくれたのです。

「あ、ありがとう。大丈夫!
あと少しだし頑張って終わらせよう!」

まさかそんなことを言ってくれるなんて思ってなかったので、嬉しいのと恥ずかしいのと、素っ気なく返事をしてしまいました。 

「みさと、明日司会だろ。立ってるの大丈夫か?
辛かったらイスを用意する様にお願いしようか?」

とさらに気を回してくれて、

「だ、大丈夫!立ってるだけなら何とかなるから!」

ジェントルマンすぎる言動にドキドキしっぱなしでした…。

そして迎えた当日。
楽しみにしていた青の着物に着替え、パンパンに腫れた足に耐えながら何とか足袋と下駄を履き、会場に向かいました。

「おはよ。本番だな。足、大丈夫か?」

「う、うん、大丈夫!これくらいなんてことない!!」

「元気なのはいいけど無理すんなよ」

と朝から心配してくれて、心の中では「スーツもかっこいいし、優しすぎるよ…」と号泣してました。(笑)

司会の為、ステージに向かっている時。
ステージは座席より少し上の位置にある為、階段で上がらなければいけませんでした。

慣れない下駄、締め付けて痛い足袋、階段を登るのはいいですが手すりがついておらず、辛いな…と思っていたその時。

「はい」

少し上にいた彼が、私に手を差し出してくれたのです。恥ずかしくて、「いや、」と断りかけていたのですが、勇気を出して、「ありがとう…」と手を取り、階段を上がりました。

「司会、頑張ってこいよ」

彼のその一言のおかげで、2時間ほどの司会もミスもなく、他の人には足の怪我もバレないくらい完璧にこなすことが出来ました。

その後、大きな進展はなく、それぞれの道を進んでいますが、その時の彼の優しさは一生忘れません。

written by かりん

エピソード投稿者

かりん

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