付き合いたての時のようなウキウキや、些細な事に対するときめきは、月日が経つうちに薄れてゆくもの。
男女の付き合いなんてそんなものだと分かってはいたけれど、付き合っている彼氏の態度や連絡の少なさに私の気持ちは冷めていました。
(LINEが2ヶ月も来ない…この前ご飯食べた時だって、話をしていても無言で相槌を打つだけ)
「私への気持ちはもう無いんだな…」
悩みに悩んだ私は、「会って話がしたい」とLINEを送り、別れを切り出すことにしました。
「私達、別れようか」
「…!なんで!」
私は彼を嫌いになったわけではありません。でも、彼からの気持ちを感じられない事、私へのおざなりな態度、何を考えてるか分からないこと。これでは付き合っている意味を感じられないと、全ての理由を話しました。
「…さーやの気持ちは分かった。でも、俺だって正直今すっごい仕事がキツいんだ。本当に毎日しんどくて、連絡する気も起きない。休日は一人でゆっくり過ごしたい。友達にも彼女にも会いたくない今はそういう時期なんだよ」
そう項垂れる彼の顔はとても苦しそうで、私への気持ちが冷めたわけではないと分かりました。
でも。
「…気持ち、今まで分かってあげられなくてごめんね。でもさ。私がこうやって体当たりで別れ話をしなくちゃ、言ってくれなかったよね?」
「…」
「いくら付き合ってても、言葉にしなくちゃ分からないことだってあるの。このまま私が黙ってたら、あなたはどうするつもりだったの?1人で抱えて私を放っておくつもりだったの?」
「…うん。さーやには、言えなかった」
「そんなの自分勝手じゃない!あなたは一人で付き合ってるんじゃない、私という人と付き合ってるの!」
「人に会いたくない、不安な時期は…いつ終わるの?」
「わからない…」
「そうだよね。じゃあ…私に、待ってて欲しい?待たずにいなくなって欲しい?私は彼女だから。あなたがどうしたいか知りたい」
彼は黙って、涙目になりながら
「…待たなくていい」
「……そう…じゃあ、別れようか」
これがお互いのためなんだと少し悲しくなりながら、私は彼と別れることにしました。
彼は「最後に家まで送るよ」と言ってくれ、少しだけお話をしました。
私は、1つ彼に言い忘れてたことがありました。
「…私の友達がね、誕生日にプレゼントをくれたの」
そうやって、見せようと思ってた物を私はカバンから取り出します。
「え?」
「温泉のペアチケット。私があなたになかなか会えてない事を話したら、友達がこれを誕生日にくれて。2人で冬にこれをきっかけに沢山遊んできなよって…」
「……」
「結果的にこれを使う日は来なかったけど、忘れないで。私とあなたの事を応援してくれてた人がいて、こういうものをくれる優しさがあったってこと、知っておいて欲しいの」
「……っ…」
彼は、涙を流しながら、悔しそうに、悲しそうに俯きました。
家の前までもう着いています。
私はその姿を最後に目に焼き付けて帰ろうとしたら
彼は待って、と私を引き留めます。
「…何?待たなくていいんじゃなかったの?」
「ごめん、ごめん…!もう少し、もう少しだけ待っててほしい…」
「!」
「分からない。今はさーやのことをたくさん考えてられる余裕が無い。でも、でも…本当は、別れたくないんだ」
「もう、言葉にしないことを後悔するのは嫌だから…」
そう言いながら泣く彼はまるで子供のようでした。
人は簡単にそう変わらない。
本当に彼が私と向き合える日が来るのかわからない。
それでも。
「…このペアチケットね、あと4ヶ月で有効期限切れちゃうの」
「…!」
「それまでなら、待っててあげる」
「うん……」
「このチケット、使える日が来るといいね」
「うん……!」
このペアチケットは、まだ使えていません。
でもあの日の彼の涙には、言葉にする以上の想いが詰まっていました。
(迎えに来てくれる日は、くるのかな)
早く、早く来て欲しい。
彼の「待ってて欲しい」は、魔法の言葉なんでしょうか。
それとも、私を蝕む呪いの呪文なんでしょうか。
written by さーや
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