ふわふわとした生地。
たぶん、中に入っているのは苺ジャム。
甘酸っぱいけれど、ほんのり甘い生地と相性抜群で。まるでパテシエが作ったみたいな美味しさだ。
真宮くんが、本当にこれを……!?
男の子なのに、ここまでレベル高く作れてしまう真宮くんって一体何者!?
「美味しすぎるよ、真宮くん!」
「ふはっ。大げさですよ、先輩」
いやいや!
本当に凄いんだって……。
女の私でもこんな風には絶対作れない。
「でも嬉しいです。そんな風に喜んでもらえて」
「これ……本当に私が食べて良かったの?」
好きな人とかにあげたら、さらに喜んでもらえると思うのにな。
こんなおばさんみたいな私が食べて良かったのか、果たして。
なんて、口に入れてしまってから、そんなこと考えても今さら遅いんだけども。
「はい。先輩に食べて欲しかったから」
「そっか!ありがとう……キャンドルも癒されちゃったよ」
「少しは癒せましたか?」
「もう、たっくさん!私ばっかで、本当申し訳なくなってくるくらい……」
気が利く優しい後輩くんを持って、私は幸せ者だな。
独りのクリスマスに、こんな笑顔になったのは今日が初めてかも。
誰かがそばに居るっていいなぁ。
「じゃあ、先輩。一つだけプレゼントくれますか?」
「うん!いいよ、いいよ!何が欲しいの?」
こんなに良くしてもらったのだから、私もそのお返しのお礼がちゃんとしたい。
今の若い男の子とかって、何を好むんだろう。
お洒落な時計とか?あ、最新のゲーム機。
いやいや、ここはやっぱり。
無難にネックレスってところかな。
今月ボーナス入ったから、どんと来い!
「なんでも、いいですか?」
「うん!なんでも買ってあげる!」
「じゃあ…………」
その瞬間、座っていた椅子から立ち上がる真宮くん。
見上げれば、吸い込まれそうな瞳と目が合う。
うわー……カッコイイよ。
見下ろす角度もグッドね。
……って、そうじゃなくて!
何が欲しいの、真宮くん。
「小日向先輩が欲しいです」
「いいよ!……って、えぇ?」
言っていることが理解出来ない私は、今とんだあほ面みたいな顔になってるんだろうな。
“小日向先輩が欲しいです。”
……ねぇ、待って。
確かにそう言ったよね?
嘘、でしょ?
「もう、先輩をからかっちゃダメだって言ったばっか──」
「本気ですよ?俺」
強引にグイッと腕を引かれ、真宮くんの腕に見事にすっぽりおさまる。
きゃあーーーーーっ!?
私、社内1の王子様に抱きしめられちゃってるんですけど……っ。
え、え……なに。どんな状況。
夢でも見てるのかしら……アハハ。
どう考えたって、こんな私が王子様に抱きしめられる訳がない。
「俺、本気で小日向先輩が好きなんです」
ねぇ……嘘でしょ?
信じられない、そんなの。
こんなキラキラした人が、私のことを好きだなんて。
「ぃ……ぃひゃぃ……、」
「フッ。ほんと先輩って天然ですよね」
ほっぺたを強くつまんでみても、ちゃんと痛い。
うん、これはやっぱりまぎれもなく現実だ。
「先輩、プレゼントしてくれますか?」
「え、いや……それは、」
嬉しい。真宮くんが、私を好きだと言ってくれることは。
だけど、私そんな目で真宮くんを見たことなかった。
つり合わない。
ずっとそう、思ってきたから。
「……ダメですか?」
やめてー、そんな捨てられた子犬みたいなウルウルした目されたら……。
「た、試しに付き合うなら……い、いいけど」
こう言うしかない。
「本当っすか!?」
「うん……」
そんなキラキラした眩しい笑顔を見せられながら好きと言われても、急展開過ぎてこっちとしては戸惑ってしまう。
これが正直いちばんの本音。
でも、今から好きになるのもアリなのかな。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
真宮くんの唇が、そっと耳元まで近づき
「今日からは先輩と後輩じゃなくて、彼氏と彼女だから」
そう甘い囁きをする。
「う……、」
「それから、実。真宮くんじゃなくて、尚斗って呼んで?」
「か、勘弁してー……っ」
「あ!逃げた、先輩!待って!」
私の方が年上なのに、後輩の彼氏にリードされまくっている。
……それでも。
“尚斗のことが誰よりも好きだよ。”
そう小さく心のなかで呟いたのは、私だけの秘密です──…。
written by :*✿ひめりぃ✿*:
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