“実、好きだよ。”
……なんだか、すごくいい夢を見たような気がする。
誰かの温もりを感じている、そんな夢。
「───ぃ。」
えへへ、このまま夢に溺れて──…。
「せ──んぱい!」
あれ、薄らと聞こえてくる声。
誰かが私の名前を呼んでいるみたい……。
「先輩起きてください!風邪引きますよ」
「……わぁっ、!真宮くん!?」
目の前のドアップな真宮くんと目が合って、私は思わず椅子からずるりと転がり落ちた。
「いった……ぁ、」
思いっきり腰を打ったような気がする……。
床に座って腰のあたりをさすっていると、前屈みになった真宮くんが心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか、先輩?」
「へ……」
スッと差し伸べてくれる手に、思わず戸惑いながらも
「あ、ありがとう……」
「はい」
その手を掴むと、満足そうに真宮くんは口元を緩めた。
見た目は小柄な方なのに、意外とゴツゴツとした男らしい手。
私よりも、こんなに大きいのかと驚かされる。
「ごめんね、真宮くん……!いつからここに居たの?」
眠る前は、私しか居なかったのに。
目を開けたら、綺麗な顔がすぐ近くにあって、不覚にもドキリとしてしまった。
それと同時に、真宮くんが目の前にいても、住む世界が違いすぎると、なんだか距離が一気に遠くも感じてしまった。
「そろそろ終わった頃かなと思って、様子を見に来たんです。でも先輩気持ちよさそうに眠ってたみたいだから」
「えー、叩き起こしてくれていいのに!」
「疲れてるんでしょ、先輩。少しは休んでください」
「あ、ありがとう……」
今日は真宮くんに『ありがとう』ばかり、言っている気がする。
後輩に慰められる先輩って、どうなのよ。
「あれ?それって……」
ふと見えた真宮くんの手元にある白い紙袋。
さっきまでは持っていなかったはずだけど。
「先輩への差し入れです。良ければどうぞ」
「え、私に?……もらっていいの?」
「はい。もちろん」
紙袋の中を覗き込むと、赤いリボンで可愛らしくラッピングされたマフィンが見える。
それから奥の方に入っているのは……アロマキャンドル?
「わぁ、いい香り……!」
袋から取り出してみると、上品なバラの香りが鼻先を甘く包み込んだ。
「気に入ってくれました?先輩に少しでもクリスマス気分を味わって欲しくて」
「真宮くん……」
そう笑顔で言う真宮くんは、なんだかサンタさんみたいにも見えた。
「クリスマスなのに、残業頑張る先輩って凄いです」
「ふふ。ただ暇なだけだから」
家に帰ってもどうせ独りぼっち。
仕事しかやることがないって感じで、オフィスに残っていた方が楽なのかな。
余計な気持ちも紛れて。
でも、誰かに褒められるって何年ぶり?
気持ちがふわーって温かくなるんだなぁ、こんなにも。
「でもありがとね。すっごく嬉しい」
「それだけじゃ……ないっすよ?先輩」
「えっ?」
どんどん近づく距離。
思わず、私はオフィスディスクに背中が当たるまで後ずさりをした。
「ちょ、真宮くん……?ち、近い、!距離が……」
「俺ずっと知ってましたから。先輩が頑張る姿」
そっと頬に添えられる手。
……もしかして、震えてるの?
「努力家で、何度も何度も諦めずに取り組むところ。俺憧れてたんです」
「え、いや……憧れだなんて、」
そんなの、ただの……
負けづらいなだけなのに。
「俺が取引先で、失敗した日のこと覚えてますか?」
「……取引先の日?」
目をそっと閉じて、その日の記憶のことを頭のなかで思い返してみる。
〜【尚斗side】〜
俺がまだ入社したての頃。
全然仕事が出来なくて、一つの仕事を片付けるだけでも毎日が必死だった。
初めて重要な仕事をもらった時。
「頑張ろうね、真宮くん。私もいるから大丈夫よ」
小日向先輩と仕事を一緒に組んだ。
不安がっている俺に、先輩はさり気なく優しい言葉で元気づけてくれて。
なんだか不思議なパワーをくれた。
初めて会うことを感じさせないくらい、小日向先輩に親近感がわいて、安心して着いていけた。
だけど──…
「先輩、すいませんでした……。俺のせいで」
「ううん、真宮くんのせいじゃないから気にしないで」
俺がミスを起こしたせいで、先輩にも迷惑がかかり取引は失敗。
何も出来ない惨めな自分に、すごく腹が立った。
それでも、小日向先輩は態度を変える事もなく優しく笑ってた。
普通は責めてもおかしくはないはずのに、むしろ先輩は励ましてくれた。
この人はどれだけ心が広くて強いんだろうって、気がつけば自分のなかで憧れの存在になってた。
年だって、俺とさほど変わんないのに。
しっかりと自分を持っている小日向先輩が、カッコよく見えたんだ。
「ほーら!男の子でしょ?ヘコんでたら、この先やってけないわよ」
無邪気な笑顔でそう笑ってた、小日向先輩は。
「せん、ぱい……」
「大丈夫。真宮くんなら、もっと伸びる伸びる!自分を信じて」
先輩の言葉を聞くたび、すごく心が救われていく気がした。
その日から先輩の“大丈夫”を励ましに、仕事を頑張ってきたつもりだし。
何よりあの時の俺は、何やってんだろうって気づかされたんだ。
先輩が頼れるくらい、一生懸命頑張ってきたんだよ。
ねぇ、先輩──…。
先輩のおかげで、俺ここまで成長出来たんですよ?
気づいてないかもしれないけど。
〜【実side】〜
「思い出した!そんなことあったね!」
「皆は忘れてるけど、俺最初から出来た人間じゃないっすよ」
しんみりとした声で呟く真宮くん。
そんな真宮くんの表情は、どこか寂しげにも見えた。
「真宮くん……」
顔立ちが整っているからか、真宮くんって常に完璧に見えるけど。
本当は皆と同じなのよね、きっと。
思い出せば、入社したばかりの真宮くんって今と全然違うもん。
追いつこうと、ただただ毎日が必死に見えた。
だから、つい。
背中を押してあげたくなったのかも。
「すっかり立派に成長したね。凄いよ、真宮くん!」
もう、私が言うことは何もない。
あの頃の真宮くんが、ちょっぴり寂しい気もするけれど。
「先輩」
「ん、なに?」
「先輩のおかげで、ここまで出来るようになったんです」
「え、いや……でも、真宮くんの努力が大きいんじゃ?」
「そんな風に思って欲しくないです……」
……え?
どうして、そんな悲しい顔をするの?
意味が分からないんだけれど……。
「先輩に救われたから、今度は俺が救う番だと思ってます」
「真宮、くん……」
ゆっくりと迫り来る真宮くんの顔。
私は思わず、ぎゅっと目に力を入れた。
その瞬間──…
──むぐ。
……へ?
「え、口の中が甘い……?」
「美味しいっすか?これ、実は俺の手作りなんです」
……なんだ。
マフィンを口に放り込まれたのか。
てっきり、このままキスをされるのかと。
目をつむった自分が、あぁ恥ずかしい……。
「先輩は気づいてないかもしれないですけど、俺ずっと先輩の後ろ姿見てましたよ。どんな人なんだろうって知りたくなって、気持ちを隠すのに必死でした」
「ちょ、ちょっと待って……!」
私、今日死ぬのか……?
written by :*✿ひめりぃ✿*:
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