それはクリスマスの初恋【Ⅱ】〜君はサンタさん〜

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“実、好きだよ。”


……なんだか、すごくいい夢を見たような気がする。


誰かの温もりを感じている、そんな夢。


「───ぃ。」


えへへ、このまま夢に溺れて──…。


「せ──んぱい!」


あれ、薄らと聞こえてくる声。
誰かが私の名前を呼んでいるみたい……。


「先輩起きてください!風邪引きますよ」

「……わぁっ、!真宮くん!?」


目の前のドアップな真宮くんと目が合って、私は思わず椅子からずるりと転がり落ちた。


「いった……ぁ、」


思いっきり腰を打ったような気がする……。


床に座って腰のあたりをさすっていると、前屈みになった真宮くんが心配そうに覗き込む。


「大丈夫ですか、先輩?」

「へ……」


スッと差し伸べてくれる手に、思わず戸惑いながらも


「あ、ありがとう……」

「はい」


その手を掴むと、満足そうに真宮くんは口元を緩めた。


見た目は小柄な方なのに、意外とゴツゴツとした男らしい手。


私よりも、こんなに大きいのかと驚かされる。


「ごめんね、真宮くん……!いつからここに居たの?」


眠る前は、私しか居なかったのに。


目を開けたら、綺麗な顔がすぐ近くにあって、不覚にもドキリとしてしまった。


それと同時に、真宮くんが目の前にいても、住む世界が違いすぎると、なんだか距離が一気に遠くも感じてしまった。


「そろそろ終わった頃かなと思って、様子を見に来たんです。でも先輩気持ちよさそうに眠ってたみたいだから」

「えー、叩き起こしてくれていいのに!」

「疲れてるんでしょ、先輩。少しは休んでください」

「あ、ありがとう……」


今日は真宮くんに『ありがとう』ばかり、言っている気がする。


後輩に慰められる先輩って、どうなのよ。


「あれ?それって……」


ふと見えた真宮くんの手元にある白い紙袋。


さっきまでは持っていなかったはずだけど。


「先輩への差し入れです。良ければどうぞ」

「え、私に?……もらっていいの?」

「はい。もちろん」


紙袋の中を覗き込むと、赤いリボンで可愛らしくラッピングされたマフィンが見える。


それから奥の方に入っているのは……アロマキャンドル?


「わぁ、いい香り……!」


袋から取り出してみると、上品なバラの香りが鼻先を甘く包み込んだ。


「気に入ってくれました?先輩に少しでもクリスマス気分を味わって欲しくて」

「真宮くん……」


そう笑顔で言う真宮くんは、なんだかサンタさんみたいにも見えた。


「クリスマスなのに、残業頑張る先輩って凄いです」

「ふふ。ただ暇なだけだから」


家に帰ってもどうせ独りぼっち。


仕事しかやることがないって感じで、オフィスに残っていた方が楽なのかな。


余計な気持ちも紛れて。


でも、誰かに褒められるって何年ぶり?


気持ちがふわーって温かくなるんだなぁ、こんなにも。


「でもありがとね。すっごく嬉しい」

「それだけじゃ……ないっすよ?先輩」

「えっ?」


どんどん近づく距離。


思わず、私はオフィスディスクに背中が当たるまで後ずさりをした。


「ちょ、真宮くん……?ち、近い、!距離が……」

「俺ずっと知ってましたから。先輩が頑張る姿」


そっと頬に添えられる手。
……もしかして、震えてるの?


「努力家で、何度も何度も諦めずに取り組むところ。俺憧れてたんです」

「え、いや……憧れだなんて、」


そんなの、ただの……
負けづらいなだけなのに。


「俺が取引先で、失敗した日のこと覚えてますか?」

「……取引先の日?」


目をそっと閉じて、その日の記憶のことを頭のなかで思い返してみる。



〜【尚斗side】〜


俺がまだ入社したての頃。


全然仕事が出来なくて、一つの仕事を片付けるだけでも毎日が必死だった。


初めて重要な仕事をもらった時。


「頑張ろうね、真宮くん。私もいるから大丈夫よ」


小日向先輩と仕事を一緒に組んだ。


不安がっている俺に、先輩はさり気なく優しい言葉で元気づけてくれて。


なんだか不思議なパワーをくれた。


初めて会うことを感じさせないくらい、小日向先輩に親近感がわいて、安心して着いていけた。


だけど──…


「先輩、すいませんでした……。俺のせいで」

「ううん、真宮くんのせいじゃないから気にしないで」


俺がミスを起こしたせいで、先輩にも迷惑がかかり取引は失敗。


何も出来ない惨めな自分に、すごく腹が立った。


それでも、小日向先輩は態度を変える事もなく優しく笑ってた。


普通は責めてもおかしくはないはずのに、むしろ先輩は励ましてくれた。


この人はどれだけ心が広くて強いんだろうって、気がつけば自分のなかで憧れの存在になってた。


年だって、俺とさほど変わんないのに。


しっかりと自分を持っている小日向先輩が、カッコよく見えたんだ。


「ほーら!男の子でしょ?ヘコんでたら、この先やってけないわよ」


無邪気な笑顔でそう笑ってた、小日向先輩は。


「せん、ぱい……」

「大丈夫。真宮くんなら、もっと伸びる伸びる!自分を信じて」


先輩の言葉を聞くたび、すごく心が救われていく気がした。


その日から先輩の“大丈夫”を励ましに、仕事を頑張ってきたつもりだし。


何よりあの時の俺は、何やってんだろうって気づかされたんだ。


先輩が頼れるくらい、一生懸命頑張ってきたんだよ。


ねぇ、先輩──…。


先輩のおかげで、俺ここまで成長出来たんですよ?


気づいてないかもしれないけど。



〜【実side】〜


「思い出した!そんなことあったね!」

「皆は忘れてるけど、俺最初から出来た人間じゃないっすよ」


しんみりとした声で呟く真宮くん。


そんな真宮くんの表情は、どこか寂しげにも見えた。


「真宮くん……」


顔立ちが整っているからか、真宮くんって常に完璧に見えるけど。


本当は皆と同じなのよね、きっと。


思い出せば、入社したばかりの真宮くんって今と全然違うもん。


追いつこうと、ただただ毎日が必死に見えた。


だから、つい。
背中を押してあげたくなったのかも。


「すっかり立派に成長したね。凄いよ、真宮くん!」


もう、私が言うことは何もない。


あの頃の真宮くんが、ちょっぴり寂しい気もするけれど。


「先輩」

「ん、なに?」

「先輩のおかげで、ここまで出来るようになったんです」

「え、いや……でも、真宮くんの努力が大きいんじゃ?」

「そんな風に思って欲しくないです……」


……え?

どうして、そんな悲しい顔をするの?


意味が分からないんだけれど……。


「先輩に救われたから、今度は俺が救う番だと思ってます」

「真宮、くん……」


ゆっくりと迫り来る真宮くんの顔。


私は思わず、ぎゅっと目に力を入れた。
その瞬間──…


──むぐ。
……へ?


「え、口の中が甘い……?」

「美味しいっすか?これ、実は俺の手作りなんです」


……なんだ。


マフィンを口に放り込まれたのか。


てっきり、このままキスをされるのかと。


目をつむった自分が、あぁ恥ずかしい……。


「先輩は気づいてないかもしれないですけど、俺ずっと先輩の後ろ姿見てましたよ。どんな人なんだろうって知りたくなって、気持ちを隠すのに必死でした」

「ちょ、ちょっと待って……!」


私、今日死ぬのか……?

written by :*✿ひめりぃ✿*:

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女性 投稿エピ 41

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