それはクリスマスの初恋【Ⅰ】〜先輩かわいい〜

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「はぁ………ぁ、」


私、小日向実(コヒナタミノリ)はオフィスデスクから離れて、窓の景色をぼんやり見つめながら、ふと深いため息をこぼしていた。


街はクリスマスで賑わっている、というのに。
仕事はそんなことお構いなしに残業だ。


なんだかまるで、雪の夜に降る冷たい結晶と孤独な私は似ているようにも思えた。


毎年変わらずそうだから、もう慣れちゃったけど。


……ハハ、でもさすがに悲しいな。


クリスマスと共に、年だけがあっけなく過ぎていくのは。


いつまで独りで残業しているんだろう。


ずっとこのまま、結婚出来なかったりして……ね。


恋愛に奥手な私は、真面に彼氏すら作ったことがない。


……そりゃあ、友達が合コンとかきっかけ作ってくれたりしてくれてはいるけど。


今まで本気で好きになった人なんていなかったや。


バカ真面目に仕事ばかり頑張ってきた女、ってとこかしら。


だって、その生き方が私には合っていると思うし。


「って、あー!早く終わらせないと間に合わないっ……」


そんなことを考えている時間なんかない。


目の前にある仕事のことだけに集中して考えなきゃ。


ちなみに予定がある仲間は、私以外皆早退。


帰っていく間際に、彼氏と過ごすと耳に入った。


別に羨ましいなんて思わないけどさ。


──いや、本当は心のどこかでそう思ってるのかな。


やっぱ寂しいよね。独りぼっちのクリスマスって。


社会人になるとなかなか家族と過ごすのは難しいし、それに一人暮らしだから。


余程のことがなきゃ実家には帰らない。


お母さんはメールをマメによこしてくれているから、すごく有難いけど。


“暖かくしなさいよ”とか
“頑張りすぎないの”とか。


たった一文だけで、私の心を温かく染める。


辛くなったら、メールを見返していつも元気出しているんだ。


「よし、もうひと頑張り」


くよくよするな、私。
25歳のもういい大人。


クリスマスだからって、落ち込んでる暇なんてないの。


まだまだ仕事が片付いていないでしょ。


あぁ、でもその前に。


眠気覚ましに、コーヒーでも入れてこようかな。




うす暗い廊下のなか、日中よりも高らかにハイヒールを鳴らして、休憩室スペースの前までやって来る、と。


暗闇の中に何やら人らしき影を見つけて、足を止めた。


「あれ、」


もしかして、私以外にもまだ残ってる人いる?


中に入って電気を点けてみると、隅のテーブル席で顔を突っ伏している男性の後ろ姿が目に入った。


こんな時間まで電気もつけずに一体何をしているのだろう、と疑問に思いつつ。


お顔を拝見しようと、私はその人の横にそうっと接近してみた。


けれど、前髪と手が邪魔をして、全くお顔が見えない。


「……あ、あの、大丈夫ですか?」


とりあえず、声をかけてみる。


「…………」


けれど、それでも無反応。
ぴくりともしない彼。


だんだんと、私の心には不安が渦まき始めた。


ま、まさか……。
息してない、わけないよね……?


思わず、彼の髪に手を伸ばして触れようとした、その瞬間──…。


「ん……、」


ずっと動かなかった彼の肩がビクッと突然動いた。


「うわっ、!う……っ」


その様子に心臓を飛び上がらせた私は、反射的に後ずさりをして、隣にあったテーブル角に脇腹を軽くぶつけた。


……あぁっ、び、びっくり、した……!


なんだ、ただ寝ていただけ……か。
はぁ、良かった。私の早とちりで。


そうほっとするも、今度は罪悪感が強く押し寄せてくる。


あーもう……私ってば何やってるの。


せっかく気持ちよく寝ていたのに、余計なことしちゃったに違いない。


……なんだか、申し訳ないことしちゃったな。


「んー、よく寝た。って、あれ?小日向先輩?何してんすか、こんな所で」


顔を上げながらきょとんとした目でこちらを見つめる、その相手は。


時々仕事が一緒になる、後輩の真宮尚斗(マミヤナオト)くんだった。


「あ、え、えっと……その……」


どうしよう……き、気まずい。


「先輩の手が一瞬髪の毛に触れた気がしたんっすけど……」


不思議そうに、真宮くんは顎に手をもっていく仕草をする。


妙に勘が鋭くて!


「って、そんなことないですよね。あ、今の忘れてください」


と思えば、今度はクシャっとさせる笑顔にきゅんとさせられたり。


これ、黙ってた方がいいパターン?
……それとも、ちゃんと本当のこと言ったほうが。


「……先輩?」

「……ご、ごめん、真宮くん。寝てるのを息してないと勘違いしてしまってですね……。触るつもりはなかったんだけど……」

「フッ……、」

「えっ?真宮くん?」


急にお腹をかかえて、豪快に笑い出す真宮くん。


それは普段クールな真宮くんからは、とても想像がつかないほどの無邪気さだった。


こんな風に笑うんだ、意外。


……てか、私。
なんか面白いこと言ったっけ……?


「面白すぎです、先輩」

「……私、面白いこと言ったっけ?」

「行動です。それじゃあ、天然丸出しじゃないですか」

「こう、どう……?てん、ねん……?」


……天然なの、私って?


「普通。寝てる人見て息してないなんて思わないですよ」

「……う、」


ごもっともです。


だけど、前髪でよくさっきは顔が見えなかったから倒れてるんじゃないかと……つい、それで。


「でも先輩かわいい」

「っえ!?」

「フフ、顔真っ赤になってますよ?」


そりゃあ、可愛いなんて言われたら赤くもなる。ましてはイケメンに言われれば。


「先輩は残業ですか?」

「うん、残業。明日まで期限の提出があってね」

「クリスマスですよ、今日。忘れてました?」


なんて悪戯っぽく聞いてくるものだから、私は少しだけむっとした顔をする。


「別に、忘れてないもん」

「ふーん……なら、誰かと過ごさなくていいんですか?」


過ごす人……そもそも居ないし。
仕事だって早く片づけなきゃいけない。


「いいのー。毎年こんな感じだし慣れちゃった」


可愛げないな、私ってば。
こんなの強がりな女みたいじゃない。


だからか、モテないのって。


「意外です。先輩ってモテそうだから、てっきり彼氏いるのかと」

「えー?ちょっと年上からかうのやめてよ」


笑っておどけてみたけれど、真宮くんの表情に笑顔が戻ることはない。


「けして、からかってませんよ」

「え、そう……?」


真顔になられると、ちょっとばかり戸惑う。


「先輩、自分でモテないって思ってます?」

「……うん?容姿だって、特に美人じゃないし」


強がりな性格が、いちばん可愛くないけども。


「俺らの同僚とか、先輩のこと狙ってる人いっぱい居るんですよ?」

「えっ!嘘……、全然気づかなかった!」

「先輩は先輩が思ってる以上に、かわいいですから。もっと自信持ってください?」

「あ、ありがとう……」


まさか、後輩の真宮くんに慰められるなんてね。


そういえば、真宮くんこそ。


クリスマスなのに、まだ会社に残っているけど。


誰かと過ごす約束とかはしたりしてないのかな。


「そういう真宮くんは?誰かと過ごさないの?」

「俺は居ないっすよ」

「彼女は?真宮くんモテるじゃない」


会社には、真宮くんのファンクラブがあるくらい。きっと社内でいちばんモテているのが彼。


「居ませんよ」


サラッと言うから、これまた驚く。


「え、でも。告白はされてるでしょ?毎回」


時々見かける。
女の子と抜け出すところを。


「あぁ、見られてました?」

「え、いや……、別に見てたとかじゃないの!」


必死に誤魔化す私を見て、真宮くんはクスクスと愉快そうに笑う。


「フフ、分かってますよ」


顔立ちが綺麗に整ってて、おまけに性格までも全く気どらない真宮くん。


それなのに彼女が居ないなんて、すごくもったいない。


若いのだから、もっと色んな人と付き合えばいいのに。


「俺、特に特定の彼女って作らないんです」

「だめだよ、そんなんじゃ!」

「……はい、?」

「23でしょ?もっと恋しないと、私みたいになるわよ?」


独身で寂しい人生を送ることになってしまう。


……って、余計なお世話か。


「ごめんね、気にしないで」


真宮くんなら、私みたいにはきっとならない。


私なんかよりもずーっと器用なはずだ。


「なんで謝るんですか、先輩が」

「え、だって余計なお節介じゃない?偉そうに……」

「先輩の想いやり。俺は好きですよ?」


優しく微笑む真宮くんに、私は慌てて視線をそらす。


ダメだ、この子。
母性本能、完全にくすぐってくる……!


「わ、私そろそろ戻るね!コーヒー入れに来ただけだからっ」


真宮くんに背を向けて、いそいそ紙コップを手に取ってコーヒーを入れる。


「俺の方こそ、仕事中に邪魔してすいません」

「ううん、いい気分転換になったから大丈夫!ありがとね」


寂しく独りで残業していたけれど、こうして休憩室で誰かと喋れて楽しかった。


なんだか喋ってみると、意外に喋りやすいっていう発見もしたし。


「そうだ、先輩!」

「んっ?」


コーヒーを入れながら、真宮くんの方に振り向く。


「俺もまだ残ってるんで、仕事が終わったら来てくれませんか?」

「え、あ、うん?いいけど……」

「じゃあ、待ってます」


こぼれるような笑顔でそう言う真宮くんを見て、私の胸には期待がふくらむ。


もしかして、待っててくれるのかなって。


都合のいい解釈かもしれないけれど。




真宮くんと別れて自分の席に戻ってきた私は、閉じていたパソコンを開いて起動させる。


しばらくパソコンと向き合うも、私しか残らない社内ではどうも緊張感が足りないからか、さっきら欠伸ばかりこぼしていた。


──だめだめ。これじゃあ、眠気覚ましにコーヒーを飲んだ意味がない。


「気を引き締めて!」


なんて、活を入れるように手で軽くほっぺたを叩いてみるけれど───…


キーボードの打つ音しか聞こえないほど静かな社内では、やはり眠気に勝てるわけもなく。


数分も経たないうちに、私の視界はゆっくりと暗闇に落ちていった──…。


written by :*✿ひめりぃ✿*:

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女性 投稿エピ 41

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