『一冊のノート』

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社会人になってから新しい趣味をはじめた。

それは『温泉旅』

始めたきっかけは社会人になってからもいっつも遊ぶ高校時代からの友人。

友人の趣味が『温泉巡り』で、休みの日にはよく男二人で地方の温泉目指してドライブにいっていた。

そんな友人が転職し、地元を離れていった。いつも遊んでくれた友人がいなくなったが、自分一人で温泉巡りは続けた。友人がくれた唯一の趣味みたいな感じになっていた。

しばらく一人で巡っていたある時、いつものように温泉街を歩いていたところ地図片手にウロウロしている女性がいた。自分は「この人込みじゃ目的の店探すのも一苦労だよな」と思った。ここは一度来たことのある温泉街で、ちょっとだけ土地勘もあるからと思い切って声を掛け目的の場所へ案内した。
同い年ぐらいのその女性は、自分同様に『温泉巡り』が好きで、観光したり温泉に入ったり自由気ままに動きたいからと一人で巡っているそうだ。目的の場所に着くと女性はお礼を言ってお店の中へ入っていった。
「まあこんな出会いもあるのが旅してるって感じするなあ」と思い、自分はその場を離れた。

それから半年後、もう一度その温泉街に行くことにした。というのも、季節限定の料理が美味しいらしいと評判を聞いたからだ。温泉巡りはいつも日帰りだったため、宿泊するのは初めてだった。
評判料理が振る舞われる温泉宿にチェックインした後、とりあえず外に散歩に出かけた。
散歩の最中、ふとある店の前で止まった。この前道案内した店だ。そこはカフェと土産物店を併設していて、購入したカップでコーヒーを楽しめるのだ。せっかく入ったからと、カップを購入し休憩した。
店の中を見渡して雰囲気を味わっていると、ふと一冊のノートに目が行った。
店員に尋ねると、これは温泉街に観光に来た人が感想などをこれに書いていくのだそうだ。

コーヒー片手にペラペラ読んでいると、ある文章に目が留まった。
『道案内してくれた優しい男性へ 先程は道案内してくれてありがとう!店に入ってから、何もお礼していなかったと思い急いで戻ったけれど、あなたはいなくなっていました。今お店でコーヒーを飲みながら見つけたこのノートにお礼を書いておきます。いつかあなたが見つけて読んでくれるといいなー!もしまた出会ったらその時は改めてお礼を言います。今日は本当にありがとう。』

自分は驚いた。別れたあの後女性がお礼をしようとしていたなんて思っていなかったから。申し訳ないことをしたなと思った自分は、ふとあることを思いつき、その文章のそばにメッセージを書いた。

『そんなこととは知らずにその場を離れてしまってごめんなさい。でもその気持ちだけでも十分嬉しいです。いま季節限定料理が美味しいと評判の宿に宿泊しに来ています。これから料理が楽しみです。今度はGWにまた来ます。そのときもし会えたらお礼をしてください。』

年度末が近づいてきて仕事が忙しく、そのあとの年度初めの仕事を思うと億劫になる。
けれどそのあとのGWが今年はとても楽しみだ。

名前も知らないあの人に今度は会えることを願って。

written by あもん

エピソード投稿者

あもん

男性 投稿エピ 11

「聞いて目の前に浮かぶ、ショートストーリー」を目指して、頑張って作ります。