二人だけのストーリー

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些細な喧嘩だった。
過去に何度もしたような小さな喧嘩。
ただそれが別れの引き金になるなんて
私は考えもしなかった。

別れたくないと泣く私に彼は言った。
「今までの積み重ねだ、もう君には耐えられない」
その一言で私達の四年間は全て失くなってしまった。

彼の性格はよく知っていたから、もう二度と戻る事はないと腹を括り
思い出の写真やアクセサリーを全て捨てた。
何度も泣いた。
涙が止まったと思っても、またすぐ涙が流れてきた。

三年間彼に片想いをして、ようやく実ってから四年。
たった一言で終わるなんて。

LINEとinstagramはブロックされてしまった。
もう何もできない。忘れるしかない。
好きなのに。離れたくないのに。






一ヶ月ほど過ぎた頃。

私は友人と出掛けた事をinstagramのストーリーにアップした。
すると別れた彼から足跡が付いていた。
ブロックされていたはずなのに、と疑問に思ったが特に気に留めなかった。

しかしそれから毎回のように足跡が付くようになった。
自分から別れを告げたのに、どうして私の動向を気にしているのかという疑問は消えなかったが
だからと言って私の方からブロックをしたり、非公開にする事はしなかった。
勿論私が彼のストーリーを見ることもしなかった。


それからただ足跡を付けられる日々が四ヶ月経った頃。

たった五ヶ月で彼の事を忘れられる訳もなく
「戻れなくてもいい。七年間も彼を想って、今だって忘れられずにいる。
だから私は彼が好きだという気持ちを抱えて過ごす。」
そう心に決めた時、ふと私は一度だけ彼のストーリーを見てみようと思い足跡を付けた。

どうやら彼は仕事が休みの日だったようで、数分前に予定も無く暇だと投稿していた。

私はきっと彼は足跡に気付いて、私の方も見に来ると予想して
私は消せずに残していた何度も彼と行ったイルミネーションの景色の写真を載せた。

誰が見ても何でもないただの写真。
でも彼には伝わると信じて。

足跡はすぐに付いた。
そして彼も新しい投稿をしていたので、私はそれを見る事にした。

彼も同じように私にしか伝わらない内容の投稿をしていた。
別れ際に彼に返せず、ずっと部屋に置いていた漫画があり、それが読みたくなったと投稿されていた。

意図はどうあれ、借りた物は返さないと、と思った私は彼にメッセージを送った。

「漫画は私の部屋にあるよ。郵送しようか?」

返事はすぐに返ってきた。

「やっぱりそうか!郵送お願いね。」
「わかった。そういえば今日は休みなんだね。」
「休みだけど予定が無くて暇だよ。君も休み?」
「私も同じだよ。休みだけど予定が無くて。」
「君と別れてから暇な休日を過ごす事が増えたよ。」
「休日はいつも会ってたもんね。私も同じだよ。」
「なんで別れたんだろうって後悔した。」

彼のこの一言で私の中の糸が切れた気がして、気が付くと私は

「ねぇ、私達やり直せない...?」

そう送っていた。

「無理だよ。あんなに大喧嘩したのに。今更...」
「私も沢山後悔した。貴方しかいないって思っていたのに大切に出来なかった。だから二人でもう一度やり直そうよ。」
「漫画返してもらう。」
「え?」
「漫画と君が隣にいる日常を戻す。」

意地っ張りで頑固な彼の精一杯のイエスの答え。
偉そうとか、上からとか周りからは言われるけど
私は彼の性格を知っているから許せる。

「じゃあこれから会おうよ。二人の思い出の場所に行こう。いっぱい遊んで、美味しいもの食べよう?」
「わかった。準備したら迎えに行く。」

五ヶ月ぶりに彼と会うから
私は目一杯お洒落をした。


準備を終えて待ち合わせ場所に行くと

そこには何も変わらない彼の車と
大好きな彼の姿があった。




おかえり、二人の日常。

written by M

エピソード投稿者

M

投稿エピ 1