僕は彼が好き。

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僕はバイセクシャルだ。

男性も女性も愛せる同性愛者だ。
女性と付き合ったことは何度かあるが、男性と付き合ったことはない。
好きになる男性はいつもノンケ(異性愛者)だ。
彼らの恋愛対象は女性であり、男性である僕を好きになることは無い。

だから、いつも想いは秘めたまま。

帰り道が一緒になったり、2人だけで飲みに行ったり、そんな些細なことで我慢するようにしていた。

それ以上を求めても本当に欲しい答えを得る事など出来ないとわかっているから。

寂しさを埋めるように、同じセクシャリティの男性と身体だけの関係を結ぶ。
こっちの世界の人達は、体の関係を持つまでのハードルがとても低いという特徴がある。
初対面の好きでもない人とでも何の抵抗もなくそういう事ができてしまう。

僕自身も一夜だけの関係を数え切れないほど結んできた。
初めて会った人とキスをして体を重ねる。
そうして性欲が満たされれば満足だった。

恋愛なんてするつもりはなかった。

彼と出会ったのは、ゲイ向けの出会い系アプリ。
年下の大学生だった。

いつもなら予定を合わせて数日後に会うのだけど、彼は夏休みということもあり、1ヶ月半くらい九州の実家に帰っていた。
こっちに戻って来たときに会おうと約束をした。

それまで、なんとなくラインでのやりとりを続けていた。
ある日、小さい頃から絵画をやっていたと彼が言い、高校時代に描いた絵をラインで送って見せてくれた。
それは綺麗な星空の下で佇む一人の少年の絵だった。
僕は、一目見たその絵に惹かれた。
思えばその時から彼自身にも惹かれ始めていたのだと思う。

声を聞いてみたいと思い、電話で話をした。
「声変わりしてないんだよね…」とラインで言っていた彼の声は、男の子とは思えない程高く透き通る声だった。

それ以来、毎日のようにラインをし、たまに電話をした。
話せば話すほど趣味嗜好が合い、彼も僕に早く会いたいと言ってくれた。
勿論、僕も会えるのを楽しみにしていた。

ついに約束をした日になった。

一緒にパスタを食べて、ショッピングをして、カラオケに行った。
一瞬一秒が楽しかった。

大学生にしては幼いルックスに声変わりしていない高い声。
それでいてお酒が強くて、タバコも吸う。
初めてタバコを吸っている姿を見たときは思わず笑ってしまい、それを見て「なんで笑うの?」と小首を傾げていた。

若いのにユーミンが好きで、最近の歌を知らない。
そんなギャップを感じさせるところがあれば、年相応なところもあって。
アプリで育てているクラゲに餌をあげなきゃとスマホをいじる彼は小さな子供のようで可愛かった。
そんな彼の一挙一動が愛おしいと感じていた。

しかし、夜、一緒にお酒を飲みに行ったときに彼が言った。

「実は、数日前に元カレと復縁したんだ…」

彼は少し言いにくそうな表情で言った。

その時、胸がきゅっと苦しくなった。
自分で驚く程に胸が痛かった。

その瞬間に気付いた。
「あぁ、僕は彼に恋をしているんだ」と。

平静を装いながら「よかったね!」と言い、胸の苦しさを紛らわすようにお酒を飲んだ。

別れ際はとても寂しかった。

その日以来、どこにいても、何をしていても、彼の事ばかりを考えてしまう。
考えるだけで胸が苦しくて、食欲もなかった。
でも、また電話をしたいと言えば迷惑になると思い、じっと堪えた。

こんなにも人を"愛おしい"と思ったのは初めてだった。

翌週、会う前から元々約束をしていた花火大会に一緒に行った。

僕の気持ちを知らない彼は、彼氏の話を沢山した。

その度に胸が苦しかったけど、笑顔で聞いた。
彼氏の話を聞く事よりも会えなくなる事の方が辛かったから。

数時間前から場所取りをしたお陰で夜空いっぱいに咲く花火を特等席で見る事ができた。

一緒に見た花火。

綺麗で眩しくて振り返ると一瞬だった。

涙が溢れそうだった。

想いを伝えたい。
好きって言いたい。
付き合えないのはわかってる。
叶わないのはわかってる。
でも知ってほしい。
何かを求めてる訳じゃない。
知ってほしい。

彼は異性愛者じゃない。
恋愛対象が同性の彼になら、伝えても良い筈の想いなのに…。

結局、僕はまた想いを心に秘めた。

何故、叶わない恋ばかりをしていまうのだろう。

でも、
こんなにも人を好きになれた事、
好きな人と花火を見れた事、
たとえ彼が僕と同じ気持ちじゃなくても、
今日という日を宝物にしたいと思った。

それ以来、彼とは会っていない。
彼の幸せを願っています。

written by れお

エピソード投稿者

れお

秘密 投稿エピ 1