思い出が崩れる音

コンテンツ名とURLをコピーする

ある、秋の風がひときわ冷たい日のこと。
一年半以上付き合った、年下の男の子に
別れを告げた。
「どうして?」
「約束してたじゃん」
「冗談でしょ?」
彼の口からこぼれる言葉が響くのは
二人でよく過ごした小さな公園。
風に転がる落ち葉の音。
私の心は彼の言葉を浴びるごとに
冷たくなっていった。
あぁ。
別れを決めるまでに
どれだけ私が苦しんでいたか
考えていたか、悲しんでいたか
…なんて、1つも知らないんだなぁ。

「いきなりすぎる」
なにもいきなりじゃないよ。
「ずっと一緒って言ってたじゃん」
私だってそれを望んでたよ。
「変わっちゃったんだね」
先に変わったのは貴方だよ。

「今までありがとう」

この一言で全ておしまい。
楽しい思い出だって沢山あった。
幸せも沢山もらった。
幸せと辛いを天秤にかけて
辛いが勝っただけだよ。
私が弱かったのかもしれないね、ごめんね。
この秋の寒さで
私も一緒に冷めちゃったのかもね?
なんてね。
他の誰かとちゃんと幸せになってね。

…って。
そう言って笑顔で
君から去れるはずだったんだよ。

「俺はずっと騙されてたんだな」

そんな一言が無ければね。

忘れられない。忘れさせてくれない。
あの時の掌の熱さも、痛みも。
叩かれて立ちつくす貴方の表情も。
初めて見た涙も。
思い出が壊れるガラスのような音が
頭の中で響いたことも。
何も忘れられない。
ねえ。
どんなに沢山ある幸せな思い出も
一言でひっくり返ってしまうなんて
私も、きっと貴方も、知らなかったね。
だからきっと
こんなにも嫌いなはずの貴方のことを
忘れることができないんだろうね。
秋は、今年も冷たいね。#

written by あずみや

エピソード投稿者

あずみや

女性 投稿エピ 4

日常が少女マンガってよく言われる頭ん中花畑なコケシ頭。