お詫びのアップルパイ

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昔、私はホテルのフロントで働いていました。
ある日、仕事をしていたら、出入りの業者さんから、「裏口に大きな車がずっと止めてあって、荷物の搬入に困るよ!お客さんかもしれないけど、動かしてもらえるように言ってもらえないかな?」と声がかかりました。
あわてて裏口に見に行くと、大きなオフロード車がどーんと置いてあります。
でも、お客さまの車ではないようだし、従業員の車?
困っていろんな部署の(ホテルなので何部署もあります!)スタッフに聞いて歩きました。

が、結局わからない…。
しばらくすると、車はいなくなっていました。
違法駐車かなぁと思っていると、さっき聞きに行った洋食厨房のスタッフがやってきて、「さっき車の持ち主探してた?ごめんねぇ、あれ、先月から入ったウチの新人だわ。そこに停めるなって言っとくね!」と言ってくれました。
解決して安心…と思っていたら、次の日また停められています!!
洋食厨房に行き、新人さんを探すと…いました!
先月から入ったと言っても、部署が違うとなかなか出会わないこともあります。
彼に出会ったのはその時が初めてでした。
「すみません、裏口に車をとめないで欲しいのですが…」と、丁寧に声をかけると、彼はキッとこっちを見て、「うるせーよ!」と言います!!
むっとしながらも私は従業員駐車場の場所をお伝えし、ちょっとムカムカしながら厨房を出ました。
すると、その彼はキーケースをチャラチャラいわせながら出てきて、こちらをチラッと見てから裏口へ降りて行きました。

それからしばらくして、仕事終わりに従業員駐車場に向かう(私も車通勤です)と、私服の彼がブスッとして立っています。
彼も仕事終わりなのかな?と思ったけど、こないだの件でムッとしていた私は知らんぷりして素通りしようとしました。
「待て。」
素通りする私を彼が呼び止めます。
「なんですか?」

「…こないだは、悪かった」
それだけ言って、私に紙袋を渡して車に乗って帰って行きました。
紙袋を開けてみると、いい香りの小さなアップルパイが!
しかも、焼きたてのようでまだ温かいのです。
コックである彼なりのお詫びの品でした。

あとでわかったのですが、その日は彼はお休みで、一人暮らしの家で焼いたアップルパイを私に渡すためにわざわざ来ていたようです。
がっ!!
一人暮らしで、器がなかったのだとは思いますが、アップルパイは職場のホテルの備品のココットに入っており、食べたあと私は厨房の食器庫にこっそり返しに行くという謎のミッションを課せられたのでした(汗)

ちなみにその彼とその後結婚しました。
離婚したけどね。

written by しろっぷ

エピソード投稿者

しろっぷ

女性 投稿エピ 8

実は結構な高齢(笑) むかーしの記憶を辿り綴っています。