彼氏との初めてのデートの日。
その日は朝から体調が思わしくなかった。
それでも初デートを断るなんてできるはずもなく、待ち合わせの駅まで何とか辿り着いた。
この時点で寒気がするし頭もがんがん耳鳴りがするほど痛かったので、素直に今日は体調が悪いと言えば良かったんだけど、何故だか恥ずかしくてどうしても言えなかった。
その日は映画を見る予定でその前に二人でお昼を食べることになった。
当時まだ18歳だった私たちは当然のようにマックに入りセットを頼んだ。
正直マックのにおいだけで吐きそうだった。
とにかく食べないと怪しまれると無理矢理味も分からず詰め込んでようやく映画館へ。
映画館なら座れるし暗いし少しは休めるはずと思ったけど、選んだ映画が悪かった。
アクションもので空でくるくる飛行機やらヒーローやらが回っている。
ものすごい吐き気に襲われた。
体調が悪いのに脂っこいマックを急いで食べたのが災いしたのだと思う。
吐きそうだと思うともう何も考えられない。
早くここから出ないといけないと言う気持ちと、トイレに行ってくるということさえ恥ずかしいとう気持ちが何度も交差した。
もう絶対に無理だと思ったとき私は立ち上がろうとした、でも出来なかった。
座っている座席は真ん中、ここから通路まで出る前に絶対に吐いてしまう。
彼氏の前で盛大にげろを吐くなんてしかも誰かに絶対かけてしまう。
絶対絶命。
もうどうしていいか分からない。
震える手でポップコーンのバケツをつかんだ。
そして顔をうずめて吐いた。
おそらく映画の大音響で音は聞こえなかったと思う。
それでもさすがに両隣、つまり彼氏には絶対吐いているのが分かったはず。
私はおもむろに立ち上がりポップコーンのバケツを持ち座席から通路へ出た。
彼氏がえっという顔をしていたが何も言わなかった。
もう顔を見ることが出来なかったから。
トイレに直行すると再度吐きかなりすっきりした気持ちでバケツの中身も処理しそのまま少しトイレで泣いた。
もう終わりだ。
初デートでバケツのげろ吐く女と付き合う人などさすがにいないだろう。
口をゆすぎトイレから出ると出口で彼が待っていた。
まだ映画も終わってないのに。
体調悪かったなら言えばよかったのに無理したらダメだよと言って家まで送ってくれた。
何て言えばいいか分からなかったけど優しいからきっと気を使っているんだろうなーと思って余計悲しくなった。
家の前で今日はごめんね、ありがとう。
と言うと彼が唇にキスをした。
げろを吐いた女の唇にキスをしてくれた。
この人に一生ついていこうと思った瞬間だった。
それ以来、彼はいつも映画に行くと通路側に私を座らせます。
written by そらまる
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