野球少年

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彼との出会いは中学1年生。
部活に力をいれていた中高一貫の私立中学に通っていた彼は、一目でわかる野球少年でした。

彼と仲良くなったきっかけは、
クラスでの出席番号順が隣という単純な理由でした。
2年生のクラス替えでも、また同じクラスの隣同士。
2年生の時に私が他の野球部にしつこくつきまとわれていたことがありました。困っていることに気付いて話を聞いてくれて、相談に乗ってくれて、ヒーローのように助けてくれたのが彼。このことがきっかけで、なんでも話せる1番の男友達になりました。

3年生のクラスでも、また同じクラスの隣同士。
私は吹奏楽部だったので、部活でよく野球応援に行っていました。彼はレギュラーで試合に出場していました。ある試合で彼は奇跡みたいな、さよなら逆転タイムリーヒット。一躍地元ではちょっとした有名人になりました。そんなニュースが学校でも流れ、はじめは吹奏楽部しかいなかった応援が、他の学生も増えてきました。どの試合でも活躍する彼はどんどん人気者に。それでも彼は変わらずいつも通りでした。

ある日の授業中。
彼から手紙が回ってきました。

「ちょっと相談したいことある。」

相談の内容は、私の後輩と付き合うことになった。というものでした。
私は『相談じゃないじゃん。それ報告って言うんだよ。おめでとう。』と言うと、
「でも別に相手から言われたから付き合うことになっただけ。なんにもめでたくないの。内緒にしてって言われたけど、お前には言わなきゃ。だから内緒な。」
「お前は?まだ彼氏作らないの?」
『そうだね。今は部活でいっぱいいっぱい』
「部長さんは大変だね。まあ相談はそれだけ。くれぐれも内密に」
『了解』
後輩と付き合っても私と彼の関係は変わりませんでした。

夏になると野球部は全国大会へ出場することが決まりました。
大会が他県だったけれど、野球部の監督と校長先生の要望で吹奏楽部は応援に行くことになりました。
全国大会でも彼はファインプレー、さよならヒット、ホームラン。試合の度に新聞に名前や写真が載る活躍をしていました。

「俺のホームランみた?さすがでしょ?」
「今日も応援くるでしょ?」
「俺人生の絶頂期かも」
そんなメールが準優勝をするまで毎日届きました。

大会が終わると野球部は引退。
これだけ注目選手になった彼は、強豪高校から推薦の話で持ちきりになりました。
私はこのまま一貫の高校へ進学する予定でした。
彼は他校に進学することを決めました。

卒業するまで彼との関係は変わらず、なんでも話せる男友達。
そしてそれぞれ違う高校にいっても、それが変わることはありませんでした。

彼は私の後輩とは別れ、同じ高校で彼女が出来ました。そして、変わらず野球では話題の人。
会ったことのない彼女に遠慮した私は自ら連絡するのを控えるようになりました。
それでも悩んだことがあると相談するし、彼と彼女の記念日にはおめでとうメールは欠かさずして惚気を聞くことが続きました。

ある日、中学から一緒で野球部のクラスメイトに
「先輩がお前のこと気になってるみたいなんだけど、どんな人が好き?」
と聞かれると、私は
『ふざけてるけど本当に困った時には助けてくれて、なんでも言える人。ちゃんと人のことを見てて、友達のこと悪く言わない人。』
そう答えると
「それあいつじゃん。」
と言われました。

彼は誰よりも信頼できる男友達です。
人として尊敬しているし、
好きになろうと思えばいつでも好きになれます。
むしろ本当は好きなのかもしれない。
でも、彼には彼女がいます。
あんなに惚気るほど幸せな関係を壊せない。
私は彼への気持ちに気付かないようにしようと決めました。

彼とのメールや関係は変わらないまま、私たちは高校3年生になりました。
彼は県大会を優勝し、甲子園に出場することになりました。
あの頃と違うのは、彼が怪我をしていること。
レギュラーだけどベンチにいることが多いのを県大会の頃から知っていました。

甲子園での彼の試合を録画し、私も吹奏楽の大会のために毎日部活に励んでいました。
家に帰るとすぐに試合結果を確認し、彼にメールをすると、すぐに彼から電話がかかってきました。
内容は中学の頃と同じ。

「見た?俺の活躍?」
「これはまた人気者だね」

そして
「まぁベンチにいただけだけどな」

あの頃と変わらない、ふざけたいつもの彼です。


次の試合も同じように録画し、部活に行きました。部活が終わり、家に帰って結果を確認しようと急いで帰っていると、彼から電話がありました。この電話で彼の学校が勝ったことを察しました。

「見た?試合?」
『今部活終わったところ』
「なんだ。もう見てくれたと思ったのに。」
『こっちも練習で忙しいんだよ。』
「そっか……」
『どしたの?』
「あのさ……次の試合なんだけどさ……」

「応援きてよ。」


『え、無理だよ。部活あるし、行ける距離じゃないよ。』
「でも来て欲しいんだって。」
『どしたの、急に?』
「明日は出れるかもしれないんだよ。
でも…なんか勝てる気しない」
『大丈夫だよ。「俺強い」んでしょ?』
「……」
『彼女が応援してくれてるんだから!ね!』
「…」
『ね?』
「だめなの!お前じゃないと勝てないの!中学のころからずっと!お前が応援くるから俺は勝てたの!だからお前じゃないとだめなの!」

こんな彼はじめてでどう反応していいかわからなくて、私は適当に流して、彼女がいるから勝てるよ!なんて言って電話を切りました。

彼はその試合負けてしまいました。



それから彼は野球の推薦で都内の大学に進学。
私はやりたいことを見つけ、他県の田舎の大学に進学しました。

大学進学後も、彼と電話やメールで連絡をとることが続きました。
彼女と喧嘩した愚痴や惚気、友達の面白い話、いろんなことを話てくれました。
わたしにも彼氏が出来、彼にも話をしていました。

大学2年生のある日。
彼から夜中に電話がきました。
電話に出ると彼は相当酔っ払っている様子で

「彼女と別れた。」
『こないだまで仲良しだったじゃん。』
「やっぱりだめなんだよ。俺やっぱりお前がいい。」
『どしたの?そんなに飲んだの?酔ってるだけだよ。』
「違うよ。ずっと思ってたから。じゃなきゃ甲子園まで来いなんて言わない。」
『でも私彼氏いるからどうしようもできないよ』
「別れて俺にしなよ。」

私は「なんで今言うのかな。」と思いました。
自分の中でやっと彼への気持ちに整理がついて、今の彼氏が好きだと思えるようになってきたのに、なんで今、彼はそんなことを言うんだろうと。

『だめ。そんな都合のいいこと私は出来ない。』

私はそう答えてしまいました。

それから彼から連絡がくることは少なくなりました。



そして、ある日を境に連絡が取れなくなりました。
もともとすぐにメールアドレスを変えたり、機種変の度に電話番号を変える彼だったので、不思議には思いませんでした。
彼から連絡が来たらすぐに連絡がとれるようになると勝手に安心していました。

それでも、もう彼から連絡がくることはありません。


さすがに不安になり、
中学の時の彼と1番仲の良かった友達に連絡すると
「あいつ、本当は中学からずっとお前が好きだったよ。まぁあいつの気持ちも分からなくはないけどな。察してあげて。」
そう言われました。


中学のとき、この気持ちに気付いていたら…
あの時、彼への気持ちを認めていたら…
甲子園に応援に行っていたら…
電話が来た時、当時の彼氏と別れていたら…


きっといつになっても私は彼からの連絡を待っていると思います。
最高に信頼できる男友達であり、ヒーローであり、大好きな彼からの電話を。

written by あー

エピソード投稿者

あー

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